2024.08.06
企業には、必ずと言っていいほど「企業理念」が掲げられています。
近年、その企業理念の重要性が益々高まっており、ミッション(Mission)、ビジョン(Vision)、バリュー(Value)、カルチャー(Culture)、パーパス(Purpose)といった言葉に落とし込み社内外へ浸透させる企業が増えてきています。
本コラムでは、企業理念と混同されやすい経営理念との違いや、企業理念の必要性、企業理念の構成要素、企業理念の浸透に成功し事業を成長させた企業事例、さらには企業理念を浸透させる方法について詳しく解説します。
Index
企業理念の本来の目的は、社会に対しての企業の存在意義や在り方を明言すること。
本質は今も昔も変わりませんが、重要性が高まる背景には、「企業は利益を上げればそれで良い」という株主中心主義から、「社会的価値の追求」というステークホルダー資本主義への大転換が大きな理由として挙げられます。
それは、一般生活者の目線からも明らかで、大量生産大量消費の時代から、地球環境や社会問題の配慮といった持続可能性を重視した消費の時代へ移行したことで、企業理念上、社会問題への解決を無視する企業はもはや生活者からも淘汰されてしまいます。
さらに、「世代の意識の変化」も大きな要因の一つです。"やりがい"や"生きがい"よりも、給料や福利厚生を重視していた旧世代が減り、自己実現や生きがいを感じる職場や仕事を選ぶ人が増えており、企業が掲げる理念に共感して働くことの優先度が高まっているのです。
事実、転職・採用系大手のビジネスSNS「Wantedly」の調査によると、求職者の85%が「パーパス(存在意義)を重視して就職・転職したい」と回答しており、給与よりもパーパスを優先して転職をする可能性があると考える人も63%に上ります。
出典:https://www.wantedly.com/hiringeek/recruit/pr_purpose/
即ち、企業として何を目指し、どのような社会的価値を追求するのか?を明確にしなければ、若く優秀な人材から見放される時代が到来しています。そのため、理念経営にシフトし、企業理念を明確化する企業が増えているのです。
では、いかにして企業理念を形骸化させずに社員やステークホルダーに浸透させるか、そしてそれを事業戦略にどう落とし込むか?を紐解いていきます。
企業理念とは、企業が存在する意義や目的、価値観を示す指針です。これは企業の行動や意思決定の基盤となり、従業員全体が共有することで企業全体の方向性を統一する役割を果たします。企業理念が明確であれば、従業員は日々の業務において一貫した行動をとることができます。
企業理念と経営理念はしばしば混同されますが、異なる概念です。企業理念は「企業全体の長期的な目標や価値観」を示し、経営理念は「経営者の価値観や経営方針」を具体的に示します。直近の事業・顧客・利益を拡大し続けるための目標や方針であり、企業理念より詳細に、目標に向けてどのような手段や行動をとるのかなどを可視化するためのものです。よって、経営理念は経営者が変わると変化することがありますが、企業理念は基本的に変わることはありません。
企業理念 | 経営方針 (経営理念) |
|
---|---|---|
目的 | 自社が存在する大義名分であり、 経営の道標。 会社の根幹となる 考え方・価値観。 経営の目的、企業の存在意義、 基本的な考えや スタンス、 スピリッツなどを可視化し、 各関与者にとっての普遍的な 意思判断軸となる。 |
直近の事業・顧客・利益を拡大し 続けるための 目標や方針であり、 1年単位での事業の道標。 企業理念より詳細に、目標に 向けてどのような 手段や行動を とるのかなどを可視化する。 |
明文化 方法 |
企業理念、社是、フィロソフィー Vision、Mission、Value、WAY 行動指針、カルチャーなど |
事業方針(計画)、中期経営計画、 マテリアル ロードマップ、 中期ビジョンなど |
策定の タイミング |
企業の大方針であるため、最低でも 5年~10年、 創業指針などは 普遍的与件として変更しない 場合も多い。 |
事業計画の見直し (単年、3か月、5か月など) または、経営者変更のタイミングなど |
企業理念は企業の存在意義や目指すべき方向性を示します。これは企業の長期的な目標や価値観を反映しており、すべての従業員が共有すべき基盤となります。企業のミッションやビジョン、コアバリューなど、長期的な視点で企業が追求すべき目標を定義することが目的であり、企業理念が明確であると、企業全体の一貫性が保たれ、ブランドイメージの向上にもつながります。
一方、経営理念は、具体的な経営方針や戦略を示し、事業を通してどのような社会貢献を行い、企業を存続させるかを明言するものです。経営層が主導し、企業の運営における基本的な方向性を定めるもので、直近の事業・顧客・利益を拡大させ続けるための目標や方針であり日常の意思決定に影響を与えます。経営理念は企業の経営状況や市場環境に応じて柔軟に変化させることが求められます。
企業理念は企業のミッション(Mission)、ビジョン(Vision)、バリュー(Value)、そしてカルチャー(Culture)という4つの構成要素から成り立っています。
ミッションステートメントは、企業が果たすべき社会的役割や使命を明確にします。企業の存在理由や基本的な業務内容を示し、すべての活動の基盤となります。ミッションは企業の根幹を成すものであり、従業員全体に共有されるべき重要な要素です。
ビジョンステートメントは、企業が将来的に達成したい理想的な姿を描きます。長期的な目標を設定することで、企業全体の方向性を示し、従業員のモチベーションを高めます。ビジョンは具体的かつ測定可能な目標であることが望ましく、企業の成長を促す役割を果たします。
コアバリューは、企業が大切にする価値観や信念を明確にします。これは従業員が日々の業務で判断や行動をする際の基準となり、企業文化を形成する重要な要素です。コアバリューは企業の独自性を表すものであり、他社との差別化に寄与します。
カルチャーは、企業内で共有される習慣や風土を示します。これは企業の特性や従業員の行動様式を形成し、企業の一体感を醸成します。企業文化は従業員の働きやすさやチームワークに大きく影響し、企業の成功に直結します。
DeNAは、「一人ひとりに想像を超えるDelightを」という経営理念を掲げ、エンターテインメントと社会課題の両軸で事業を展開しています。この理念のもと、インターネットやAIを活用して人々の生活を豊かにし、挑戦心を持つ社員がそれぞれの個性を発揮することで、新しい価値を提供し続けています。特に注目すべきは、DeNAがスポーツエンターテインメント事業に参入し、プロ野球チーム「横浜DeNAベイスターズ」を運営することで、地域社会との結びつきを強化している点です。この取り組みにより、地域経済の活性化と共に、企業ブランドの向上にも成功しています。
メルカリは、「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションを掲げています。具体的には、ユーザーが不要品を売買できるプラットフォームを提供し、循環型経済の促進を図っています。この理念に基づいた事業展開により、メルカリは国内外で急成長を遂げました。また、メルカリの企業文化も大きな特徴です。例えば、「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(全ては成功のために)」「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」という価値観を掲げ、社員一人ひとりが主体的に行動し、企業の成長を支えています。
ニトリホールディングスは、「住まいの豊かさを世界の人々に提供する。」という理念を掲げ、家具やインテリア商品の提供を通じて、世界の人々に豊かな暮らしを提案する企業を目指しています。そして、2032年に3,000店舗売上3兆円という数値的に明確なビジョンを掲げ、ニトリは低価格で高品質な製品を提供し、顧客満足度を高めています。
特に注目すべきは、ニトリが家電量販店のエディオンと共同開発で、家電事業に参入しており、家電ラインナップを拡充することで企業理念を体現していることにあります。また、グローバル展開も加速しており、海外市場にも積極的に進出しており、国内外での事業成長を実現し、企業ブランドの向上にも成功しています。
サイバーエージェントは、「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンを掲げ、インターネット事業を軸に多岐にわたるビジネスを展開しています。特に、広告代理業やメディア運営、ゲーム開発などで成功を収めています。この成功の背景には、サイバーエージェントが掲げる「Always Fresh」というブランドコンセプトがあります。この理念は、常に新しいことに挑戦し続ける姿勢を社員全員に求めるものであり、若手の台頭を奨励し、年功序列を廃止するなど、革新的な企業文化を育んでいます。
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いかにして企業理念を形骸化させずに社員や顧客、ステークホルダーに浸透させるか、そしてそれを事業戦略にどう落とし込むか?ここでは、5つのステップで浸透方法を解説していきます。
企業理念や企業ビジョンを効果的に社内浸透させるためには、まず「ビジョンドリブン型」の組織を構築することが重要です。ビジョンドリブン型とは、企業のありたい姿や目指すべき未来を明確にし、そのビジョンに基づいて組織全体を動かす方法です。
このアプローチにより、従業員は企業の目指す方向性を理解し、自らの行動をそのビジョンに合わせるようになります。
例えば、リーダーが明確なビジョンを持ち、そのビジョンを全社員と共有することで、従業員一人ひとりがそのビジョンに共感し、自発的に行動するようになるのです。このようなビジョン共有のプロセスは、単なるトップダウンの指示ではなく、共感を生み出すためのコミュニケーションが求められます。
※画像出典:「コーポレート リブランディング」コンサルティング・メソッド9.1(YRK&)
次に、ビジョンを具体的な行動に落とし込むために「バックキャスティング思考」を採用することが有効です。バックキャスティングとは、未来の理想的な姿から逆算して現在の行動を決定する方法です。これにより、具体的なステップや戦略が明確になり、組織全体が一丸となって目標に向かって進むことができます。
例えば、2030年にどのような企業でありたいのかを明確にし、そのために2025年までに達成すべき目標を設定します。その後、具体的なアクションプランを策定し、毎年の進捗を評価・修正するというプロセスを繰り返します。これにより、長期的な視点で企業の成長を促進することが可能になります。
※画像出典:「コーポレート リブランディング」コンサルティング・メソッド9.1(YRK&)
企業理念やビジョンを浸透させるためには、「全員の共通認識を創ること」と「共通言語」を持つことが重要です。全員が同じ方向を向き、同じ言葉でコミュニケーションを図ることで、組織全体の一体感が生まれます。
共通認識を創るためには、定期的なミーティングやワークショップを通じて、理念やビジョンに対する理解を深めることが有効です。また、共通言語を浸透させるためには、社内で使われる用語やフレーズを統一し、全員が同じ言葉でコミュニケーションを取る環境を整えることが求められます。
※画像出典:「コーポレート リブランディング」コンサルティング・メソッド9.1(YRK&)
企業のミッション(Mission)、ビジョン(Vision)、バリュー(Value)、そしてカルチャー(Culture)を明確に言語化し、それを社内外に発信することが重要です。これにより、企業のブランドイメージが一貫し、従業員や顧客に対して強いメッセージを伝えることができます。
例えば、企業のMVV+Cをパンフレットやウェブサイトに掲載するだけでなく、社内の掲示板やミーティングで繰り返し強調することで、従業員が日常的にその理念を意識するようになります。また、社外に対しても、広告やPR活動を通じて企業の価値観や文化を伝えることで、ブランドの認知度を高めることができます。
※画像出典:「コーポレート リブランディング」コンサルティング・メソッド9.1(YRK&)
企業の成長を体系的に捉え、その成長を支える要素を視覚的に示す図説「ブランドグロースツリー™」を取り入れることで、企業の成長戦略が明確になり、従業員が自らの役割を理解しやすくなります。
企業理念・企業MVVの浸透を図る際には、まず企業のビジョンを頂点に据え、その下にミッション、コアバリューを配置します。そして、それぞれの要素を支える具体的な行動やプロジェクトを枝葉としてInputとOutputの両方の軸で描き出します。これにより、全員が一目で企業の成長戦略を理解し、自らの行動がどのように企業の成長に寄与するかを把握することができます。※ブランドグロースツリー™は株式会社YRK andが提唱する独自の図説です。
企業理念やMVVを社内に浸透させるためには、ビジョンドリブン型の組織づくり、バックキャスティング思考の採用、共通認識と共通言語の創出、MVV+Cの言語化、そしてブランドグロースツリー™の活用が重要です。これらのアプローチを実践することで、企業全体が一丸となって目標に向かって進み、持続可能な成長を実現することができるのです。
企業の成功は、従業員一人ひとりが企業理念を理解し、自らの行動をそのビジョンに合わせることによって達成されます。そのためには、リーダーシップの強化と、全員が共通の目標に向かって努力するための仕組みづくりが不可欠です。
Writer
ReBRANDING magazine 編集部
参考資料
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