2023.03.24
そもそも、「リブランディング」という手間のかかる作業に、なぜ今更着手する必要があるのか?
今日は、その理由に迫りたいと思います。
リブランディングでブランド価値を高めることで得られるメリットが大きいことは理解をしていても、
など、多くの懸念点があり二の足を踏んでしまうという企業様が多いのが実情です。
しかし「業績向上を目的にするなら、リブランディングに投資するのが早道だ」と、社内で論理的に説明ができたらどうでしょう?少しは今よりも話を聞いてもらえるような気がしませんか?
今回は業績向上のための「リブランディング投資」を実現するための重点ポイントについて紐解いていきます。
セールスアップ領域は、売上の最大化が第一義であり、営業活動の強化や販売促進の加速、広告投下や新規チャネルの開拓、新市場やBtoBへの拡張などの、あらゆる手段が挙げられます。しかしここで最も注目すべきは、「値上げ」というセールスアップの方法。結局のところ、どんなに効率良く作られた製品やサービスも、それを安く世の中に販売してしまうと、結果としての生産性は下がってしまいます。日本は値上げが苦手な国としてはトップクラスかもしれません。
しかし今まで通りの思考のままで、突然「値上げ」をしてしまえば、顧客にとってのブランド価値の毀損に繋がってしまう可能性が高い。だからこそ「リブランディング」を行うことで、今の価値を疑うことから始め、改めて価値を再定義。前例主義の成長から脱却した「本来の価値」に立ち戻ることで、根本的な価値向上から「値上げできる素地」を作ることができるようになります。
ここで一つ事例を。
少し古い事例ではありますが、「ヤクルト」ブランドを紹介します。かつて1970年代には1,600万本を売り上げたヒット商品のヤクルト。子供に大人気のおなじみのあの商品ですが、2000年代に入ると売上は半減。しかしそこからリブランディングを導入し、業績は徐々に回復。今ではYakult 1000などの新シリーズも爆発的なヒットとなっています。このV字回復の裏には、明確な「価値の再定義」のプロセスが存在しています。
Newヤクルト:48円/本
かつて、ヤクルトの価値は何?と問われると、「子供向け」「なじみがある」などの言葉が代表格でした。他にはないロングセラー商品だからこそ、 ヤクルトのイメージ調査でスコアの高いのが「なじみがある」というものでした。言い方を変えれば「慣れ」。それは、ある意味で強いブランドの証明でもあります。「なんとなく・理由もなく・気がつくと買ってしまっている」という状態に到達できるのは稀有なブランドとも言えます。しかし、この「慣れ」だけでは売上を維持することが難しくなったのもまた事実。それ以外に 「買いたくなる理由」が必要となったのです。
そこでリブランディングがスタート。
一度立ち止まり、本来伝えたかった価値は何なのか?そもそもこの商品は何のために存在しているのか?を考えると・・・出てきた一つの答えは、「身体に良い」「お腹の健康を守る・良い菌が入っている」という本来、商品が持ち合わせていた価値。調査をすると、この価値は圧倒的に伝わっていなかったそうです。
そこでヤクルトの原点でもある「L.カゼイ・シロタ株」という菌の価値を訴求することにコミュニケーション戦略の焦点を設定。「愛されたい人・あるべき姿・本質的な価値」を明確にし、再出発。見せ方はもちろん、売り方から開発や研究に至るまで全てが変わり始めていったのです。
今では、さらにイメージを派生させ、睡眠改善やストレス緩和が期待できる商品(Yakult1000・Y1000)で、SNSでも「よく眠れる」「寝起きがすっきりする」など多くの口コミが拡散され、たびたび話題になっているような商品にまで辿り着きました。まさに非連続成長による「値上げ」。
ただ単に、金額を吊り上げるのではなく、本来の価値に立ち戻り「新しい方向へ再出発」することで、大きく商品の開発プロセスを変更せずとも、価値を倍増させることができた非常に良いリブランディングの事例と言えると思います。
出典:ヤクルトHP https://www.yakult.co.jp/yakult1000/
しかし、それでも値上げはそう簡単でないことは分かっています。卸屋や流通に価格決定権を握られている企業様は、特にここに大きな壁があるでしょう。
ですが、「そもそも値上げをしよう!」とする動力源や思考を作る運動すら起きていない企業は、永久に生産性を向上させにくいままとなります。どんなにテクノロジーの力で省人化・省力化を進めても、てっぺんの売上高を伸ばせなければ業績は根本的に向上しません。原材料の高騰に加え、人件費や光熱費はさらにどんどん高騰してきています。低価格のままでは、もはや戦えないのです。
今ある価値を、2倍3倍のバリューでも長く愛用してもらうためには、まずリブランディングという戦略を導入し、新しい価値で第一歩を踏み出し直す必要が絶対的にあります。これこそが「コスト」ではなく、「投資」であることに繋がるのです。リブランディングによる値上げは、企業の命運を握るドライバーとなるでしょう。
業績の向上のために一番取り組みやすく、業績への影響も分かりやすいのが「コストダウン」。あらゆる支援会社が個々のテクニックやテクノロジーを活かして、様々な「効率化」のサービスを提供しています。まずは、ムダやムラを最小限化し、生産効率を上げることで業績の改善を狙うパターンです。
この領域においても「リブランディング」を行うことで、メスを入れることができます。例えば、増えすぎてしまったサブブランドの再整理や、膨大なSKUの取捨選択などが挙げられます。本当に必要なものだけを残して分散投資を防ぐことは、まさにリブランディングの得意な領域になります。
また、判断基準が明確になることで、決定プロセスの省力化ができ、あらゆる間接コストのカットに効果を見込むことができます。リブランディングによるコストカットは効果絶大であり、この一歩を踏み出さない理由はありません。そのためにも前記「セールスアップ領域」でもあげた、「価値の再定義」は極めて重要になります。その商品はそもそも何のために存在するのか?本当は誰に愛されたいのか?本来の価値は?10年後にありたい姿は?と、問い直すタイミングがきているのです。
セールスアップ、コストダウンとは少し違い、レバレッジ領域は言わば「未来への投資」による業績向上と言えます。もちろんレバレッジをかけていくためには様々な技法がありますが、その中の一つがリブランディングであることは間違いありません。「ブランド価値」は、プロモーションのように消耗するものではなく、生活者とブランドとの間に蓄積していくものであり、何にも代え難い資産になっていきます。そして、これを手に入れるためには、希少性や、独自性、便益、ストーリーなどももちろん重要ですが、その中でも「時間」という要素が極めて重要となります。
希少性やストーリーなどは比較的短期間でも醸成することができますが、「時間」だけはどうやってもすぐには手に入りません。早くからブランディングに取り組み、一貫して投資を続けてきた人たちにしか手に入れられないものとなります。つまり、少しでも早くブランディングを意識した投資をしている企業の方が有利となり、高いブランド価値を得やすい状態となります。すなわち、今すぐ取り組むことこそが、未来へのレバレッジになります。
ご存知の通り、「リブランディング」は、単なるイメージ戦略ではありません。長期的なイメージ向上のための費用と認識してしまうと、投機的なコストと考えがちです。しかし、本来は上記でも述べたように、3つの領域で見るだけでも、ダイレクトに業績向上・改善につながるものです。セールスアップ領域、コストダウン領域、レバレッジ領域の全てに寄与するのであれば、一度立ち止まってブランディングを考え直してみようと考え始める経営者は少なくないと思います。
今回は、ほんの一部をご紹介しましたが、リブランディングを導入することによる効果は、マーケティング強化はもちろん、採用強化、株価向上などにもインパクトのある良い影響を与えます。今後、人口減少や少子高齢化は加速し、働き手の問題などリブランディング以外にも多くの投資が必要なタイミングとなります。しかし、これら全ての投資は、ブランド戦略が固まっていなければ、有効な投資にはなりません。まず何よりも先に、今一度自社のブランドの価値を再定義し、きちんと固め直すことを優先すべきです。色々な投資はそれから考えても遅くはないのではないでしょうか?