2024.05.07
今回は話題の生成AIのお話です。どこを覗いても様々なAI論が語られており、もはや普通のAI議論では読む気にすらならない。そんな中、「生成AIとリブランディングの関わり」という、少し変わった観点からのお話をしていきたいと思います。
ご存じの通り、AI(人工知能)とはArtificial Intelligenceの略。研究者によって定義は異なるそうですが、人工知能学会によると「知的な機械、特に知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術」と説明されています。もちろん機能としてはなんとなく理解できるが、実際リブランディングにどう活用していくのか?という視点では具体的に見えてこないことも多いのではないでしょうか?少しずつ紐解いていきたいと思います。
と問われると、「自己学習能力があること」と答えるのがシンプルな解釈だと思います。AI以前の技術では、人が機械に毎回指示を与える必要がありましたが、AIでは人が毎回指示を与えなくとも自分で学習し、最適な行動を起こします。これがよく聞く、「ディープラーニング」と呼ばれるもの。この技術は色々なアウトプットに応用され、文字や音声での出力はもちろん、画像生成や動画生成にも拡張したことで、AIの進化は私たちの想像を超えるところまで進んでいます。進化はAGI※1、ASI※2と進んで行くこともそう遠くはない未来かも知れません。
※1 AGI(Artificial General Intelligence):人工汎用知能の略で、人間のような汎用的な知能を持つ人工知能を指す。
※2 ASI(Artificial Super intelligence):人工超知能の略で、人間の知能を超えたレベルの知能を持つ人工知能を指す。
一方で、進化のスピードが早いだけに、企業での捉え方や活用実態は三者三様。省人化、省力化という効率向上の側面で活用することが中心の企業もあれば、壁打ち役を命じ、新しい付加価値を生むためのパートナーとして活用しているケースも耳にします。一方で、法的な整備も順次並走している状態で、腰が重い企業も少なからずあるようで、業種業態、ポジションや部門の役割によって、様々な活用が試されています。
そんな中、米半導体メーカー、エヌビディアの共同創業者、ジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は、企業と個人はAIに精通する必要があり、さもなければ負け組になるリスクがあるとの考えを示しています。ジェンスン・フアンCEOは台北にある国立台湾大学の卒業式でも、「機敏な企業はAIを活用して地位を向上させるが、機敏さに欠ける企業は消滅するだろう」とし、「AIに仕事を奪われると心配する人もいるが、AIに精通した人に仕事を奪われることになるのではないか」と述べた。AIはこれまで存在しなかった新たな仕事を創出する一方で、一部の仕事を廃れさせるだろうとフアン氏は述べています。
では、我々の専門分野である「リブランディング」には、AIはどう関係してくるのか?
まず、AIはある一定のルールや再現性のある作業を非常に得意とし、学習によっては応用力もあるため、ブランドの一貫性を保つための様々な管理マネジメント機能とは相性が良いと考えられます。コンセプトとのズレや違和感、一定のトーン&マナーや、設定した世界観、ペルソナ、未来像など、複合的な条件を学習させ、乖離があると一定のアドバイスや自動修正がかかると言った一貫性の担保は、AIの得意な領域と言えるでしょう。ブランドのルールとなる判断基準を、きちんとAIが享受データとして持っていれば物理的には可能です。Brand Management Automationというべきジャンルでしょうか。ブランディングの世界では、今後その様なツールがもっとたくさん出てくるのではないでしょうか。
しかし、一方でブランディングの成功のためには、「分析して管理する」という活動だけでなく、「観察して発見する」という定性的な議論や発案も必要になります。世の中に、まだニーズとして顕在化していない「深層の欲求」のようなものを探る作業が重要になるため、ルール通りの運用では発見が難しいのが難点。しかもこのアイデアを、すぐに行動に移し、試しては、変化させながらアップデートしていく、プロトタイピングを繰り返すことがブランディングには必要不可欠なのです。この、観察をして発見(深層の欲求を深掘り)して、試してみて何度もトライする、という行動までの一連のプロセスをセットで考えると、まだまだ人間が取り組んだ方が効率のいいジャンルと言えるでしょう。つまり、連続的な成長というより、非連続な成長を生み出すためには、「管理としてのAI」だけでは不十分だと言えます。今の所、人間とのコラボレーションが最適であり、ブランドマネジメントのフルオートメーション化は、まだ少し先の未来といったところでしょう。
一方で、AIをブランディングのツールとして捉えて活用すると、様々な価値が生み出せる様にもなります。
まず、何よりも一番は画像や動画生成AIによる「アイデアのプロトタイピング(可視化)」でしょう。仮説を目に見えるカタチにするスピードや量が圧倒的に増える。つまり、議論の幅や、新しい発想への糸口が見つけやすくなるのです。新規事業アイデアやプロダクトやサービス、スペースのデザインなど、あらゆるアイデアをすぐに可視化でき、議論を深めることができます。社内に1人は必ずこういった議論をプロンプトして、生成AIで高速出力してくる人材が必要になる日は近いでしょう。
だとすれば、大切なのはそれを決めるための、人間側の判断基準となります。このブランドのコアバリューはなんなのか?そもそも何のために存在している事業なのか。誰に愛されたいのか?どんな未来を実現したいのか?これらが、明確になっていなければ、生成AIはただの夢を膨らませるツールでしかなく、むしろ逆に迷いや混乱を生み出します。
また、リサーチは極めてAIの得意領域になるでしょう。今まで長時間に亘り必死になってベンチマークや参考事例を探していた時間は、プロンプト一発で解決という世界になるでしょう。これらもある種、議論の材料が増えるという意味では、上記のアイデアの可視化と合わせてブランディングを高めるものになると言えます。
そして、ブランディングの世界で最も身近に進化が進むのは、コールセンターや、デジタルマーケティングの世界です。特に、ある一定の分かりやすい成功モデルが存在する業界のアプローチは、ほとんどが自動化されるのではないでしょうか。
中でも、ブランド価値を向上させる手段として自動化されるのは、CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)や、CS(カスタマーサクセス)の領域。顧客にファンになってもらうための様々なアウトプットは、今後あらゆる方面で自動生成されていくのではないかと思います。しかし一方で、顧客やファンの気持ちを汲み取らなければならないコールセンターなどは、今の所まだ人力の需要があるのも事実です。解決策というよりは、話し相手としての機能を求めるタッチポイントには、人間が必要な場面がまだまだ存在しています。
今、ブランディングにとって大切なポイントは、ひたすらに良い商品をつくるような、「商品の価値向上」だけでなく、接客体験、立地や世界観の価値、デリバリーのスピード感、コールセンターの声や態度など、「総合的な顧客体験価値の向上」が最も重要になってきています。しかし、これらは、人の教育レベルによって、最もムダ、ムリ、ムラが出やすいところでもあります。
しかし、これからはその一部を、AIで今よりもっと早く正確に処理することができる様になります。すると、人間はもっと創造性の高い仕事に集中することができるのです。
ブランディングに、創造力は欠かせません。そういう意味では、ブランディングにとっては、AIの発達や活用は極めて追い風になり、分散していた様々な投資を集中できるようになるでしょう。
世界中に、もっと洗練された様々なブランドが立ち上がれば、今の価値をより高い価値で提供できる様になり、そしてより良い社会の経済循環を生み出すことにも繋がります。リブランディングと生成AIは、これから最も需要が出てくる組み合わせになるはずです。