2024.02.13
まず、みなさんこの図をご存知でしょうか。アイゼンハワーのマトリクスと呼ばれているもので、スティーブン・R・コヴィーの著書「7つの習慣」にも取り上げられている、事業には非常に重要な整理方法です。今日はこの図説から、タイトルの内容を分かりやすく語っていきたいと思います。
言わずもがな、この図の中で最も注力すべきは②の部分。③はもちろん、①もできるだけ人やチームに協力してもらうことで、緊急性は低いが、重要度が高いことに限られた資源を投資していく必要があるといわれています。
毎日の事業活動には、いろいろなことが起こります。クレームがあれば当然緊急性も重要性も高く、即対応する必要がありますし、業績が下がれば何かしらの販売促進やコストセービングの対応が即必要。むしろスピードそのものが求められます。テレビやSNSなどでムーブメントを察知すれば、すぐその波に乗るための方策を打つ必要もあり、ポジティブもネガティブも含め、それらは毎日毎日繰り返されます。常に緊急度の高いものに、私たちの限られた時間は削られていってしまうのが現実です。
しかし、暇ができたら必ずやろう!と思っていることは、どんな人にもたくさん存在します。これは、皆さんの私生活でもそうではないでしょうか。いつかはやらなきゃ、暇な時にやろう、今年こそは、来年こそは。と重要なのは分かっているのに、なかなか手がつけられない、何とももどかしい状態。これは、ブランディングにも全く同じことが起こりうるのです。
例えば、増えすぎたブランド整理や、SKUの見直し。また、そもそもこの商品の価値は?今の生活者からどう思われて買われているのか?そろそろ根本的に見直さないと、毎年微減だなぁ・・・?毎日出てくる課題には対応してきているが、本質的な問題は何なんだろう?一度きちんと市場の変化を調べたいなぁ。そして、そもそもこのブランドは、5年後10年後にどうなっていたいのか?社会の中でのこの事業の存在価値は何なのか?そろそろ言語化する必要があるのではないか?などなど・・・少し書き出すだけでも山盛り。いつかやりたいが、何かしらの事情で、まだ手がつけられていないことは、改めてリストにすると山のように出てくるものです。
この時、重要になるのが、WILL / CAN / MUSTというフレームでのタスクの整理です。リクルート社がキャリアデザインの際に活用していると言われているフレームワークですが、これがブランディングタスクの整理にも適応できるのです。
具体的には、このブランドの「未来のありたい姿」と、「社会的存在価値」を考え抜くことです。ついでに「愛されたい人」も明確に定義できれば最高。大抵の場合ふんわりと考えはあるが、言語化されていなかったり、経営者や事業責任者の頭の中にだけ存在していて、全くチームに共有されていないケースが多くみられます。
緊急度は高くないが、実は最も重要度の高いミッションであり、常に考え続け、変化させていく必要があるため、一度限りではなく、社内にこのことを考え抜く「場を作る」ことが重要です。
すると、この「未来のありたい姿」こそが、事業の「ビジョン」になり、「社会的存在価値」こそが、我々が存在するための「ミッション」になります。いわゆる、ミッション、ビジョン、コアバリュー(MVV)と呼ばれるもの。しっかりと言語化し、どの社員が自社のブランドを語る時にも共通の価値観を持っていれば、事業成長のスピードが格段に増すことは言うまでもありません。
これが定まると、このWILLと、今現在とのギャップが明確になります。そのギャップの中にこそ「本質的な問題」が発見されます。おそらく、ひとつやふたつではありません。まだ課題にすら上っていない問題が炙り出されて、マトリクスでいうところの②の部分にどんどんタスクが積み上がっていくはずです。
「今できること」という意味になりますから、WILLの実現に向けて今できることを一歩ずつ段階的にクリアしていきます。いわゆるバックキャスティングと言われる手法です。
WILLとは、つまりは理想の姿ですから、非常に遠い道のりであることが多い。一見実現不可能かも?というようなビジョンを掲げて大きく出ますが、現実的にできることは限られています。よくあるのは、ここに経営者と従業員のギャップが生まれるパターンです。
また社長がとんでもないことを言い出した…、そんなの実現できるわけがない…、社長は現場が見えていないのではないか?など、おおよそこの類いの意見が飛び交います。
しかし、理想論を語らなければ、これまた絶対に理想的な未来は手に入りません。どちらが先かと言われれば、CAN(今できること)から考えるよりも、WILL(ありたい姿)から考えるべきであり、これこそがマトリクスの②にあたるところへの投資なのです。
確かに①や②は必要で、やらなければならないMUSTにあたるタスクです。現場のひとりひとりは、毎日がこの緊急度との戦いです。しかし、それがどんなに大変であっても、②を否定してはいけません。これこそが、このブランドにとっては唯一のレバレッジであり、いずれは①③と戦い続けた方々に還元されていくものなのですから。
ブランディングに重要なのは、このタスクの種類と役割を、ブランド活動に関わる組織の全員が把握していることです。
リーダーは常に、ブランドのレバレッジを意識し、ブランドの拡張や変化対応などを考え続ける未来志向である必要があり、現場で毎日起こるMUSTだけに翻弄されてはいけません。常に熱いWILLを語り、考え抜く必要があります。
逆に、現場のひとりひとりは、ビジョンにきちんと共感しながらもMUSTに向き合い、できる限りそれらを効率よく、またアウトソーシングを上手く使いながら、仕組み化を意識した動きや、それらへの提言が必要です。経営者は出てきた仕組み化アイデアに積極的に投資をすべきでしょう。
そして、ミドルマネージャーは、両方を見極めながら「今できることは何か?」を判断し、CANを大胆に実行します。今はまだ未来のWILLと、現状とのギャップは大きいが、それを長期的に捉えた時に、今すべきことは何か。今できることは何か?そのためには、チームのみんなにどんなスキルをトレーニングすべきなのか。①③をできる限りアウトソーシング、または仕組み化し、②へ投資する組織にしていくことが、ブランディングを成功へ導く本質的な組織の体質改善となります。そういう意味では、ミドルマネージャーの現場への翻訳力は、ブランディングにとっては極めて重要なスキルとも言えます。
これは明日から実行できます。ぜひWILLを徹底的に議論し、アウトソーシングや仕組み化できるMUSTを見つけ、今できるCANを戦略的かつ段階的に実行していってください。必ず強いブランドに近づくはずです。