2020.01.06
タイトルだけを読むと一見ネガティブに聞こえてくるこの言葉。実はブランディングにおいては重要な鍵を握ります。新年一号目のコラムでは、そんな「思い込み」という、ある種の熱量が生み出すブランディング術を綴ります。明日からのブランディング活動に少しでもお役に立てれば幸いです。
ブランディングに重要なことのひとつに、そのブランドのコンテクスト(文脈)があります。物語性や、ストーリーテリングとも言われます。私たちもリブランディングを行う際、まずはその企業の中に存在するいろんな「点の価値」を徹底して掘り出し、それらに新しい視点を導入することで共通項を見つけます。そして、ある文脈に即して整理整頓することで「線の価値」に変え、魅力にプライオリティ(優先順位)をつけていく作業をします。それのコンテクストにより、ブランドに、かつての「強い一貫性」を取り戻させることからブランディングの基盤をつくります。
スティーブ・ジョブズの言葉に、「connecting the dots」という有名な言葉があります。今まで積み重ねてきた様々な努力が、実は関係ないと思っていた価値や事象と繋がり、振り返るとそこには唯一無二の価値が存在しているというもの。Appleの成功を逆算して、学生の頃から計画的にカリグラフィーを学んだり、NeXTとPixarを創業したりしたわけではなく、その瞬間はその価値づくりに没頭し、後にそれらを接続することで成功したのだと語っています。
すなわち、いろいろな魅力を「接続する力」です。当社も、「伝統とは革新を繰り返した結果、振り返った時に繋がっているもの」という言葉を大切にしています。124年の歴史がありますが、その時代を最大限に生きた先人たちの「dots(点)」を振り返った結果、明確に繋がっている価値があり、それが結果として私たちの何ものにも代えがたい物語になっているのです。つまり、少し極端に言えば、ブランディングに必要なのは、その都度「正解する力」よりも、頑張り続けた瞬間を、「接続する力」なのです。
このように、ブランディングにおけるコンテクスト(文脈)づくりは、超計画的であり、常に正確でなくてはならないものではありません。正解はないものだからこそ、これがきっとカッコいい!きっとカッコ良くなる!こうすればきっと成功する!という根拠のない「思い込み」がブランドのスタートアップに繋がり、実はその思いに没頭する熱量こそがブランディングに重要なのです。
もちろん、計画性があることを否定しているわけではありません。情報は出来る限り沢山集め、計画は戦略的に徹底して練るべきです。しかし、何が起こるかわからないVUCA(予測不可能)の時代に求められるコミュニケーションには、こういった熱量が同時に重要になることは間違いありません。従来のマーケティングに適用されてきた思考法とは少し違い、こういった方法は「仮説推論」と呼ばれ、マーケティングの世界でも注目されています。
また、この「思い込みの力」には、思いが強いからこそ、あれこれ点で考えていたことを、一つの文脈に繋げたいという本能的な「接続する力」も芽生えてきます。さらに、この「思い込みの力」には、色々な実績を良い文脈に解釈して、ポジティブに「接続し直す力」も備わっているのです。先ほどのスティーブ・ジョブズの話に通ずるものがあるかもしれません。
話は戻りますが、時代が目まぐるしく変わる中、じっくり調べて、しっかり吟味してから作って始める従来の方法では時間がかかり過ぎます。1クールもあれば、マーケットの状態が変わってしまうため、このような「思い込みの力(仮説推論)」を活用してイノベーションにトライする企業が増えてきています。まず仮説を立て、可視化し、トライ。間違いやエラーはその都度改善し、継続的に良くする努力を続けていきます。
「思い込み」の厄介なデメリットはもちろんあります。そのうえで今回は敢えて、その熱量に焦点をあて、ブランディングへの活用をお伝えしました。そのブランドがどんなステージにいて、どんな環境で育っているのかによってプロジェクトは大きく変わります。しかし、周りに配慮し、空気を読み、調和していく環境よりも、ある種「思い込み」で走り出すことは大きな一歩だと思います。リブランディングとなると、尚更その動力は必要になります。この思い込みブランディングは、一長一短を孕みながらも、一つのブランディングプロジェクトを成功へ導くトリガーになることでしょう。