「フェラーリ」から学ぶ「強気なブランド戦略」(後編)

2022.05.30

リブランディングマガジン_フェラーリコラム後編_TOPバナー(リブランドならYRK&)


【ブランディングコラム】
#「フェラーリ」から学ぶ「強気なブランド戦略」


前編はこちら

「欲しがる客の数よりも1台少なく作る」というビジネス哲学の起源

できるだけ手間を掛けず、高利益な車を売るには、顧客から「高くても買いたい」とお願いされる状態が理想です。
これなら商品を魅力的に訴求する広告も、高い理由を説明する営業マンも必要ありません。

この状態を作るため、フェラーリ社がとった戦略は大きく2つありました。

① 顧客が「何としても手に入れたい商品」を開発する

② 希少性を意図的に生み出し、ユーザー側に機会損失を生じさせ、価値を高める

事業活動を行う上で、①は至極当然のことですが、ここで重要なのは②。

フェラーリ社は正確な既存顧客リストを基に何台の市販車が売れるかを見極め、生産台数をそれより1台少なく設定したうえで、販売価格を決めているそうです。

どんなに市場から渇望されても、計画した台数のみの生産(需要と供給の意図的なアンバランス)によって、ブランドの希少性・価値を高めることに成功しています。これは言い換えると、フェラーリ社は「"憧れの数値"を最大化させるために"買えない人の数を増やす"」ことに投資してるブランドであるということです。

引用コラム:#「高級ブランド」に存在する、二つの解釈。

「欲しがる客の数よりも1台少なく作る」というビジネス哲学は、「クルマを売る」ことではなく、「F1で勝ち続ける」という創業当時からのブランドの存在意義を貫き通すためにとった経営戦略であり、それが結果的に、ラグジュアリーブランドとして"買えない人の数を増やす"という強気な戦略に昇華していったと言えるのではないでしょうか。

ブランディングコラム_フェラーリ_図説2_PC(リブランドならYRK&)(BtoBブランディング)

ブランディングコラム_フェラーリ_図説2_SPリブランドならYRK&)(BtoBブランディング)

結果としてフェラーリ社は、トヨタの1000分の一の販売台数であるにも関わらず、1台当たりの販売利益は約60倍と桁外れな数値を出し、F1への開発資金を投入してもなお十分に企業利益を確保しています。(近年のF1は年間予算制限があるのでこのモデルも変わりつつあるようですが・・・)

ブランディングコラム_フェラーリコラム_図説3_PC(リブランドならYRK&)(BtoBブランディング)

ブランディングコラム_フェラーリコラム_図説3_SP(リブランドならYRK&)(BtoBブランディング)

※2022年4月 自社調べ

ストーリー性の高いプロダクトはブランドポテンシャルも高い

このフェラーリ社の歴史とブランド戦略を紐解いてわかったことは、唯一無二のストーリーが存在するブランドは、プロダクト自体の性能を評価して購入するだけではなく、「そのプロダクトを持つ自分のライフスタイルの充実感」も購入対象であり、さらにはそのブランドストーリーのファンであるため他社製品よりも価格の高いブランドを選択しているということ。そしてマーケットを意識した戦略的価格ラインではなく、作り手が決めた一方的な価格設定であっても、そのブランドストーリーに共感し、利用したいと思うファンには愛され続けます。さらにそこに希少性を意図的に創り出すことでよりブランド価値が高まるのです。

世の中に受け入れられやすい「マーケットイン」発想でプロダクトを開発することも大事です。一方で、高い熱量を持ち、「プロダクトアウト」発想で立ち上げたブランドは、愛されたい人だけに愛され続け、結果的にブランド価値を高めることに繋がります。そしてそれは原材料費高騰に勝てる強気の事業戦略を生み出す土台となり、企業の安定成長へと誘います。

引用コラム:# シン・プロダクトアウトのススメ

もちろんブランド戦略は、プロダクトアウト発想のためだけのものではありませんが、コモディティ化や価格競争からの脱却が大命題の昨今、差別優位性を打ち出し、企業が適切な利益を得るために必要な強気のブランド戦略のヒントがフェラーリ社にはあると思うのです。

writer
越野 浩平