大手4大出版社「講談社」のブランディングに見る、成功するプロジェクトの進め方(後編)

2022.06.16

講談社ブランディングコラム_後編(リブランディングマガジン)(リブランドならYRK&)


前編はこちら

プロジェクトを“アツく”成功に導く「4つのポイント」

③とにかく、すばやく、共創

プロジェクトを進める中で、グレーテル社とはかなり密接にコミュニケーションが取られていたそうです。コロナ禍以前に何度も『講談社』に足を運んでいたことはもちろん、海外からの行き来が難しくなってからも、定例ミーティングやSlackを通して頻繁にやりとりが行われたといいます。

ブランディングコラム_講談社_image03(リブランドならYRK&)(BtoBブランディング)

その際、プロジェクト内で決められていたルールがありました。それは「グレーテル社からの提案を受けた時は、48時間以内にフィードバックをする」というもの。

短いスパンでフィードバックを返し、それに対してグレーテル社のメンバーが応えていく。そしてさらに、フィードバックを返す──。こうしたやりとりが続くことは、お互いにとってかなりのプレッシャーになるはずです。ただ、グレーテル社の代表、グレッグ・ハーン氏は、いいものを作るためには「クリエイティブ・テンション(創造的緊張)」が必要不可欠であると語っています。

良いものを作るには、常に緊張感が必要だと考えています。二つの概念……たとえば伝統と革新という概念が混ざり合うときには緊張が生じますが、実はその緊張が良いものを創り出すための原動力となるのです。

引用元:https://www.kodansha.com/jp/interview/

コンテンツ制作においての考え方として語っていた内容ですが、これはプロジェクトを進める上でも同じことが言えるのではないかと考えます。

④誰かが答えを出すのではなく、共に答えを作っていくこと

適度に負荷をかけ、瞬発的にリアクションを返し合う。ハードルが高いように感じるかもしれません。しかし、このやりとりにおいて重要なのは、リアクションの質ではありません(もちろん質が高いに越したことはありませんが)。大切なのは、短いスパンで試行錯誤を重ねていくことです

クリエイティブにおいて、初めから完璧なものが出来上がることはほぼありません。例えばデッサンでは、最初からディテールを描こうとするのではなく、全体の形や陰影をざっくりとつかむところから始まります。そこから、少しずつ筆致を重ねていくことで、徐々に全体のクオリティを高めていくのです。

プロジェクトづくりも同様だと思います。始まりは些細な提案、フィードバックでいいのです。その場の思いつきでもいいでしょう。大切なのはその次。メンバー全員が同じ視座で、議論や試行錯誤を重ねていくこと。そのコミュニケーションを何度も繰り返しながら、質が高く、みんなが納得するものを、全員で作り上げていくのです。

ブランディングコラム_講談社_image04(リブランドならYRK&)(BtoBブランディング)

大きなプロジェクトになればなるほど、関与者が多くなります。人数だけでなく、高い役職の社員が関わることも増えるでしょう。そうすると、結論を出すまでに時間がかかったり、時間がかかることで全体の熱量が下がってしまうことがあります。また、結論を出すことにこだわりすぎるがあまり、議論が膠着してしまうことも避けられません。社内・社外のメンバー問わず、プロジェクトに関わる全員が、“アツい”気持ちを持ち続けて前進するためには、すばやく、綿密な試行錯誤が必要不可欠なのです

『講談社』の現在と、私たちの日常へのヒント

こうしたやりとりを経て生まれたのが、“Inspire Impossible Stories”というブランドストーリーでした。様々な価値観が交わり生まれる「クリエイティブ・テンション」を原動力として、誰もが見たこともないような新しいコンテンツを世の中に送り出していく。そして、作り手やユーザーの新しい発見・創造性をうながしていくような出版社でありたい。そうした思いが込められたストーリーです。また、同時に制定された新しいロゴマークでは、複数の価値観や人々が交わり合う「交差点」を、『講談社』のKの形をモチーフに表現しています。

これらは『講談社』が創業112年目を迎えた昨年、ブランドフィルムと共に発表され、それ以降に刊行された書籍や雑誌を通して徐々に世の中に広まりつつあります。また、2022年からは「交差点」というキーワードを軸にした“World meets KODANSHA”というプロモーションをスタート。著名人と『講談社』作品が「交差」した瞬間のエピソードを軸に、『講談社』の新しいブランドストーリーを発信しています。10年という長期目標の中で迎えた3年目、早くも世界に『講談社』を発信するために動き出しています。

これまで漠然と、レーベル単位・タイトル単位での印象に頼っていた老舗出版社が、世界を視野に入れ、社を挙げて行ったブランディングプロジェクト。統一感のある表現で社内外への発信が実現できているのは、前述の「全員のチューニングを合わせたこと」「すばやいテンポで共創を重ねたこと」の二点が達成できていたことが鍵でしょう。“言うは易く行うは難し“なポイントですが、一人ひとりがこれらを意識するだけで、プロジェクトの進み方、深め方はぐっと変化するはずです。大きなプロジェクトに限らず、日々の企画会議や部署間のコミュニケーションにおいても、強く意識しなければと感じた事例でした。