#イングリーディエント・ブランディング事例に見る ものづくり企業におけるブランディングのヒント

2022.10.25

イングリーディエント・ブランディング事例に見る ものづくり企業におけるブランディングのヒントTOPimage(リブランドならYRK&)(BtoBブランディング)


はじめに

「インテル、はいってる」

ブランディングに関わる方のみならず、多くの方が知っているこのフレーズ。
特に39歳の筆者と同年代以上の方は「サボテンにインテルが入っていたら」等のCMを覚えている方も多いのではないでしょうか?

コピーライティングとしてもこの事例は有名なB2Bコミュニケーションの成功例でも知られています。当時珍しいB2B企業のCM活用、インパクトのあるフレーズ、そして各パソコンにIntelのマーク。これらが日本におけるIntelの認知率を高め、その後の躍進となったことは周知の事実かと思います。しかし、その裏側でIntel社はどういった施策を行っていたのでしょうか?

今回は「イングリーディエント・ブランディング」というキーワードを元にIntel社やGORE-TEXの成功要因を分析しながら、これからのものづくり企業のブランディングについて考察するとともに、YRK&の登録商標で独自に提唱する「ファンクショナルブランディング®」戦略にも触れていきたいと思います。

Index

  1. イングリーディエント・ブランディングとは
  2. Intel insideの事例
  3. GORE-TEXの事例
  4. 似て非なる、「ファンクショナルブランディング®」
  5. これらの事例から見えてくるヒント

イングリーディエント・ブランディングとは

イングリーディエント・ブランディングはインブランディングとも呼ばれ、日本語で成分ブランディングや素材ブランディングなどと訳されるものの、ここでは成分ブランディングとして取り上げます。その意味は、「ある部品や成分などの部材が業界における圧倒的な競争優位性を持ち、その部材そのものが最終製品のブランド価値を高めること」とされます。その起源は意外にも古く、20世紀前半に化学メーカーとして成功したドイツのヘキストとビーエスエフとされ、1960年代にはデュポン社がテフロンに関して成功を収めています。

ただ、最も成功した事例としてIntel社の事例と言えるでしょう。他にもドルビー、VISA、GORE-TEX、シマノ(自転車部品)もイングリーディエント・ブランディングの成功事例とされます。完成品における技術ブランディングではなく、部品や素材などの成分ブランディングであるという点を押さえておきましょう。

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「Intel Inside」の事例

それではIntel社の事例を見ていきましょう。1990年のIntel社は約500万ドル前後の売上。業界内では優れたメモリーを製造するブランドとして知られていたものの、エンドユーザーにおいては企業認知、プロセッサーの性能などの商品理解等、十分に価値が伝わっていない状況でした。 というのも、「CPU」というPC内部に実装される半導体デバイスは、生活者に直接触れる機会が限りなく少なく、事前調査でIntel社単独で発信するだけでは生活者には伝わらないことがわかっていました。そこで、この状況を解決するために考案されたのが「Intel Inside」プログラムです。

日本では「インテル、はいってる」と韻を踏んだ心地よい響きのフレーズは、実はただのキャッチコピーではなく、世界中のパソコンメーカーと共同で実施するプログラムの名称でした。その内容は「各社のパソコンの広告(CM・印刷物)にIntelのロゴを含めると、Intel社が広告費の一部を協力し負担する」といったものでした。

1991年7月に開始したこの取り組みには、同年末に300ものメーカーが参画を表明。共同での広告と同時に、Intel社も連動した広告を実施するマルチレベルコミュニケーションは110万ドルの予算で展開。このキャンペーンをきっかけにIntel社の認知度は大きく飛躍。パソコン購入者におけるIntel社の認知度が、1992年の22%から1994年には80%へ向上しました。

さらに、Intel社は高性能パソコンの普及促進に向けて、マザーボードの規格を台湾企業と共同開発、他にもパソコン内の規格を策定する等、パソコンの標準化に向けた取り組みを次々と展開。結果、ブランドメーカーのパソコンの単価を10年間で50%を超える価格低減を実現しました。 「Intel Inside」は自社のブランド価値をわかりやすく伝え、完成品メーカーと共に最終製品である高性能パソコンの価値理解と広く市場に普及するための施策として機能しました。

この結果、完成品メーカーはパソコン販売数拡大、エンドユーザーは利便性を享受、IntelはCPUの大量販売と圧倒的なシェア獲得となりました。

GORE-TEX「GUARANTEED TO KEEP YOU DRY」とは?

次に防水・防風・透湿に優れた素材として有名な「GORE-TEX」を見ていきたいと思います。ジャケット、フットウェア、グローブなどの様々な製品に搭載されており、有名ブランドであってもGORE-TEX活用製品には製品本体にGORE-TEXのタグが必ず付いているのを見かけた方も多いのではないでしょうか。その高い防水透湿性(水を通過させず、水蒸気は透過させる)はライフスタイルブランドのみならず、アウトドア、アスレチックに加えて、消防・救急・警察・特殊部隊から宇宙までなど厳しい環境などで利用されています。

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GORE-TEXと大きく描かれたロゴの上に白文字が記載されていることにお気づきでしょうか?

「GUARANTEED TO KEEP YOU DRY」

これはゴアテックスのブランドプロミスであり、「あなたをドライに保ち、快適に着用出来ることを約束します」という意味のようです。製品機能を端的に表しているこのブランドプロミスは「Intel Inside」と同様に、ただのキャッチコピーではありません。

このブランドプロミスを記載した製品において防水性・防風性・透湿性に満足しない場合はゴア社が該当製品の修理や交換、返金に応じると保証制度を展開しており、このブランドプロミスはその製品保証を示すものとしても機能しています。もちろんこれは完成品に絶対の自信がないとできません。

ゴア社では取引先の完成品を自社で耐久テストを実施。品質基準の達成有無を発売前に必ずチェックしており、品質基準に達しない場合は発売を許可しないと言われています。
また、完成品の品質保証だけではなく、完成品を販売する小売店にもブランド理解のためのアクションも積極的に行っています。1980年代には登山用品店の店主をホテルに招き、GORE-TEXの性能、機能に関する説明会を始めていたと言われています。

現在では岡山工場に多種多様な小売店を招き、レインルームでの防水・防風・透湿の耐久テストへの参加や機能説明の研修を行うことで、小売店におけるGORE-TEXブランドロイヤリティを高めていることが多種多様な業界でGORE-TEXが支持される理由の一つかもしれません。

似て非なる、「ファンクショナルブランディング®」

ここで、成分ブランディングではあるが、もう少し広義に捉える事が可能なYRK&が提唱する「ファンクショナルブランディング®」戦略を紹介いたします。

これは例えば、パナソニックの「ナノイー」、コンビの「エッグショック」、ダイソンの「サイクロンテクノロジー」など、“自社製品ラインナップの範囲のみ”で展開する独自技術のシンボル化で、コモディティ化市場において差別優位性を図るブランド戦略も含まれています。

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それはすなわち、可視化・管理されていない、埋もれてしまっている自社の「商品価値」を活用し、商品や事業を横断したコミュニケーション強化によりコモディティ化を突破するという戦略です。勿論、これはイングリーディエント・ブランディングと比べどちらが優れている、劣っているという事ではありません。自社が置かれている市場環境や目指すべきポジションによって、もう少し踏み込んで言うと、自社のミッション・ビジョン・バリューを定義した延長線上で、どちらの戦略でいくのか?経営戦略として考えていかなければなりません。

例えば弊社が手掛けた事例、ベビー用品メーカー コンビ社「エッグショック」のファンクショナルブランディングは、差別化要素として見過ごされていたベビーカーの衝撃吸収材の機能性価値(ファンクション)を差別化戦略のコア価値とし、シンボル化・ロゴ化させ、広告から店頭まで一貫性のあるコミュニケーションを展開しました。その結果、信頼感・安心感の醸成に成功し指名買いが増加。前年比で大きく売上に寄与する結果を得られました。

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さらに、この機能性価値(ファンクション)は自社カテゴリーを跨いで機能搭載が可能であったため、ベビー用品ブランドのコンビ自体のブランド価値を高めることにも成功しました。

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そして、「エッグショック」の発展性はここだけでは留まりません。”生まれたての赤ちゃんの頭を守る”という機能的価値は、先述の通り、“自社製品ラインナップの範囲のみ”で展開し、差別優位性を図る事が当初の狙いでした。しかし、この「エッグショック」に電動アシスト自転車メーカーのパナソニックサイクルテック社が目をつけ、子乗せ自転車のチャイルドシート部に「エッグショック」を搭載するため共同開発を行うまでになりました。

この事例は、自社技術の機能性価値を再定義し、機能ブランディングを行う事で自社商品の売上に貢献するだけでなく、その延長線上にはイングリーディエント・ブランディング(他社への技術提供販売)が可能であることを体現しています。

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これらの事例から見えてくるヒント

いずれの事例も、わかりやすいロゴやフレーズなどのクリエイティブな点で人々に自社ブランドを印象付けて成功している事例であることは間違いありません。ただ、それは一部分でありロゴやフレーズをつけるだけではイングリーディエント・ブランディングとは言えません。

イングリーディエント・ブランディングのゴールは、取引先の完成品価値を自社のブランドによって高めた上で、それが取引先の顧客の完成品の購入動機の一つになっていることかどうかです。

そのために、直接取引先の完成品の品質保証サポート(規格作り・製品テスト・保証制度・広告支援等)、直接取引のない小売店・エンドユーザーへのコミュニケーション等、各ステークスホルダーにマルチレベルでコミュニケーションしていくことで、バリューチェーン全体において自社がどのような価値提供に関与できるかが重要と言えるかもしれません。

Intel社の事例だけ見ると、大きな広告費が必要と思われがちですが、GORE-TEXのように自社を正しく伝えられるステークホルダーにピンポイントでコミュニケーションをすることも有効です。どのようなステークホルダーへアプローチすべきかは業界・業種などにより異なるかと思います。

近年私自身もご支援が増えてきたブランディング案件。その効果は社外だけでなく、社内のモチベーション喚起や新規事業のきっかけとなることもあります。日本企業におけるブランディングはまだまだ未開拓な領域が多いですが、企業の事業拡大やサステナブル性への影響力は非常に高く、取り組む企業は間違いなく増えてきています。読者の皆様、これを機会に自社の取り組みを振り返ってみてはいかがでしょうか?

writer
奥野 浩章