2022.08.19
前回のコラム「ブランド力はサステナブルで強くなる」では、値上げに強いブランド力づくりには、「好き」で買い続けてくれるファンが必要で、そのためには機能的差別化だけでなく感情的差異化によって選ばれる商品やサービスをつくらないといけない。それは、「ソーシャルプロダクツ」に取り組むことで実現できると書きました。
今回の後半コラムでは、「サステナブルがファンをつくり会社を強くするメカニズム」について紐解いて参ります。ポイントは、“自分たち「らしさ」をどう発見するか?”です。
Index
「ソーシャルプロダクツ」とは「人や地球にやさしい商品やサービスの総称」のことですが、どこか特別な、意識高い系の生活者が選ぶ商品だと思われがちです。しかし、日本の会社が提供している商品やサービスで、社会悪なものがあるでしょうか。どの商品やサービスも、社会のどこかをもっと良くすること、改善することが目的で、誰かのために役立っているはずです。
高度経済成長期の工場から出る排煙や排水による公害問題や、開発による環境破壊も、現在では劇的に改善されています。どれくらい改善されているのかは、各社ホームページのIRやCSRのページを見ればよくわかります。
たとえば、
などなど、これらはいくつかの会社のCSRページに載っていたもので、環境負荷への大幅な改善を物語る数字なのですが、CSRという特定の人しか見に行かないページに掲載されていることが、もったいないと思っています。
しかし、これらの数字を変換したり換算したりするだけで、意味も価値も変えることができます。商品やサービスそのものの価値につなげることができるのです。
それは、さっきの50%や30%の削減数字を全体としてではなく、あるいは何年分かの積み重ねの数字ではなく、
商品1つあたりに換算する
顧客1人あたりに換算する
それを1年にするといくらになるか換算する
これから10年でどのくらいになるか換算する
日本全国だとどのくらいか、世界だとどうなるか、
2030年の目標に対して今どこまで来ているかに変換してみる、ということなのです。
こうすると、その商品を買うこと、使うことが、直接CO2や電力やエネルギーを削減することにつながっているという実感が持てるはずです。つまり、これらの商品を買って使うことは、その企業の社会や環境に対する取り組みに参加していることであり、協力していることであり、応援そのものなのだと位置づけられるのです。こうした換算や変換によるコミュニケーションは、「セロテープSDGs」や「大川印刷」、「アディダスRUN FOR THE OCEAN」ではすでに行われています。これらの事例も含めて詳細は、下記のコラムをご参照ください。
ところで、「ソーシャルプロダクツ」が特別なモノではないとしても、通常の商品よりも割高感があって、なかなか買ってもらえないのではないか、という話を聞きます。
買ってもらえないのは、価格が高いからなのでしょうか。一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会(APSP)が、毎年実施している生活者調査の結果にそのヒントがあります。
2021年の11月に生活者に聞いた調査結果が下のグラフです。ソーシャルプロダクツの購入意向があるにも関わらず買わなかった生活者600人に、「なぜ買わなかったのか」を聞いたものです。
1位はたしかに「価格が高いから」(30%)という理由ですが、2位が「どれが該当商品かわからない」(29%)、3位は「身近で買える場所が無い」(21%)、4位は「商品ラインナップが少ない」(14%)と続き、「品質が高くない」「デザインが洗練されていない」と言う理由もあります。つまり、高いから買わないという人も30%はいますが、それ以外の理由は「ソーシャルプロダクツ」だから買わなかったのではなく、通常の商品であってもおそらく買わなかっただろうと思われる理由が並んでいるのです。
「ソーシャルプロダクツ」は高いから買ってもらえないのではなく、通常の商品と同じような努力がなされていないことが買ってもらえない原因だということです。
さらに、「ソーシャルプロダクツはどのような活動をすれば、値段が高くても購入するか」を聞きました。1位は「自分の関心が高い活動」、2位は「深刻な社会的課題を解決する活動」でしたが、この2つの回答にある「活動」とは何を指すのか、それを探るのも絞るのも難しいかもしれません。
しかし3位「商品や事業を通した活動」、4位「その企業やブランドらしい活動」については、今の事業や商品・サービスの「らしさ」を強調したその延長線上にある活動であれば、価格が高くても付加価値を感じると答えているのです。そして、5位は「最小限の活動」だと答えています。言いかえれば、「できることから」はじめてくれれば付加価値に感じると生活者は言っているのです。
時間とコストをかけて社会的な活動を準備するのではなく、「その商品・サービスが提供しているビジネスの延長線上」で「その会社らしさ」が出ていて「できることから」はじめた社会問題の解決に、その分の価格が上乗せされても、値打ちを感じる、つまり付加価値を感じると答えているのです。
6位には「自分も参加可能な活動」とあります。買うことが参加につながる、応援の表明になるというのも、付加価値なのです。
値段が高くてもそれを付加価値だと感じるのは、「今のビジネスの延長線上」で「らしさを出すこと」だと生活者は教えてくれていますが、イメージできますか?「今のビジネスの延長線」で新たに何かをはじめるというのも、考えてみると意外と難しいものです。そこで先ほど挙げたように、すでにはじめている社会や環境に対する取り組みを、今のビジネスに換算する/変換するということを考えてほしいのです。
それからもう一つ。「うちの会社らしさ」ってなんですか?
これは社長から社員一人ひとりまで、「うちの会社らしさって何だろう」と考えた時に、だいたい同じことをイメージしているかどうかがポイントです。パッと思いつかないかもしれませんし、みんなバラバラかもしれません。
実は「らしさ」って簡単そうで難しいものなのです。
「らしさ」とは強みであり独自性です。そして何よりも「らしさ」は魅力でなければなりません。つまり「らしさづくり」は、ブランディングそのものなのです。
私がソーシャルプロダクツはこれからのマーケティングであり、ブランディングそのものだと考える理由がここにあります。だからソーシャルプロダクツは、特別なモノを新しくつくるということよりも、すでにやっていること、取り組んできたことの中に、価値や強みや魅力を探して発見することが大事だと思っているのです。
ところが、ESGやSDGsを含めたサステナブルな取り組みをうちの会社で考えるために、他社の情報を収集しているうちに、「うちは他社に負けている」「うちは遅れている」「経営陣も社員も意識や理解が足りない」という考えに陥りがちです。
そうならないためには、「すでにやっているのに知らないだけ」「うまく伝えられていないだけ」「やっていることを価値に変換できていないだけ」という視点で会社の中を探すことです。会社の中だけでなく、サプライチェーンにも広げて見てください。
さらには創業の時代から今に至る歴史の中からも探してください。新しい発見があるはずです。
その発見は、うちの会社に対する自信や誇り、魅力につながっていきます。
そして、うちの会社を見直し再発見するきっかけになります。
こうした、「うちの会社のサステナブル探し」を、部門横断のワークショップでやることで、「うちの会社も大したものじゃないか」「もっと伝えていかないともったいない」という気持ちと行動が社内に広がります。
最後にもう一つ。「好き」を引き出す重要な要素について触れます。まだサステナブルやSDGsが浸透する前の2017年、博報堂が実施した「生活者の社会意識調査」の結果にそのヒントがあります。
この調査では、「社会や環境に不誠実な企業の商品は買わない」という回答が1位で66%。
2位が「社会や環境に悪影響な商品は買わない」が61%でした。
「悪影響な商品」は買わなくて当然ですが、「不誠実な企業の商品」って?と思いませんか。誠実な企業と不誠実な企業の境界線はどこにあるのか、ということです。
誠実さ、それは「透明性」です。
やっていること、実現していること、だけではなく、これからの課題や、解決できていない問題も、両面を伝えているかということです。
日本の企業は口下手です。おくゆかしい企業が多いように思います。完成するまで、万全を期するまで、人様に恥ずかしくないレベルまで仕上げないと、言うべきではない、と思っています。
しかし誠実と不誠実の境界線は、「言うか言わないか」です。だとすれば、黙っていることはリスクになります。むしろできていないことや、課題はたくさん残っているが、小さなスタートを切りました、と伝えることがAPSPのアンケート結果(グラフ2)にあった「最小限の活動」への評価であり価値です。
「まだまだ不完全だけどがんばっているから応援したい」
「課題をなんとかしようとしているから協力したい」
「その会社らしい取り組みだから応援したい」
そして、「目指すビジョンに共感した」
これが「好きになるメカニズム」であり、感情的差異性を引き出す要素なのです。