2023.02.16
今日は、ある経営者様からいただいた言葉をヒントにコラムを綴ります。その経営者は、今や一流ブランドへと育った「スターバックス」の事業成長に日本上陸時から関わり、事業変革リーダーとして800店舗、2万人の組織にまで成長させ、その後「SABON」というイスラエルのブランドを自ら日本に。現在52店舗を展開するSABONの礎を築かれた黒石社長です。先日当社のイベントにもご参加いただき、たねやの山本社長と共にブランディングのヒントをたくさんいただきました。
今回はそのイベントを通じて学ばせていただいた、「サービスやプロダクトを通じて生み出す、“新しい文化”」についてコラムを綴りたいと思います。
Index
昨今、書籍やWEBニュースを開けば、「イノベーションが重要!」「日本にはイノベーションが足りない!」という言葉を頻繁に目にします。確かに、停滞しているブランドや、硬直化する日本のさまざまな事業において、イノベーション(非連続な成長)を起こすことが重要である側面は否めません。高度経済成長期に確立した組織構造のまま、人口増加に伴う連続成長を続けてきた日本企業。しかし近年、天災やコロナ、戦争などの予測不可能な環境に加え、人口減少や高齢化など、日本は今までとは違った時代を迎えたことで、突然「非連続成長」を余儀なくされ始めています。これにより、自立型人材や、新しい発想を生み出すような組織デザインが必要不可欠だと言われ始めているのが現状です。イノベーション!と声高に書籍やWEBで取り上げられるのも、デザイン思考!仮説推論!などという言葉が重要視されるのも、改めてこれらの環境変化が大きく影響しているのだと思います。
イノベーションに続いて、「ディスラプト」という、なんとも分かりにくい横文字があります。「破壊的な創造力」という意味だそうです。企業でいえば、「ディスラプター」と呼ばれ、UberやAirbnb、Spotifyなどが挙げられます。それとは対象的に位置する言葉として、「イネーブルメント」という言葉も存在します。「できるようにする、有効化する」といった意味だそうです。これら二つの意味を要約すると、非連続な新しいアイデアを創出し実行する「イノベーション的な動き」か、現状の課題を検証し、延長線上でさらに成長させられるかという「オペレーション的な動き」、と言った二元的な言葉と解釈できます。
この言葉を見ながら、少し黒石社長の言葉を思い返すと、意外にもブランディングには「イネーブルメント(できるようにする、有効化)」することが重要であることに気付かされます。つまりは、毎日のオペレーションシステムと、そのPDCAの連続が、いかに良いブランドを作り出すかと言うこと。スタバもサボンも、一見結果からみると、極めてイノベーティブ(革新的)なブランド。今までのコーヒーチェーンの概念をひっくり返したかのようなコンセプトに見えます。まさにディスラプト(破壊的創造)。どの本にも「第三の場所(3rd Place)」というコンセプトが素晴らしい!とだけ綴られていますし、その部分がキャッチーなこともあり、よく取り沙汰されます。
スターバックスのハワード・シュルツは、以下のように述べています。
「コーヒーはね、何百年間も会話の中心にいるんですよ」「私たちは、お客さまの“第3の場所”をつくろうとしているんです。家と職場の間にあって、そこへ来れば1人で一服できて、何かの集まりに参加している気分になれる。スターバックスは、近所の人が集う玄関先のポーチのような存在になったんです。うちが体現しているものを、みなさん信頼してくださっています。お客さまが何度も足を運んでくださるのは、質の高い経験価値のおかげです」
しかし、黒石氏はこうも繰り返し伝えてくださいました。
新しいコンセプトやイノベーティブな考え方は、そう簡単に出てくるものではないし、それが答えとして正しいかどうかも誰にもわからない。また革命的なアイデアは、突然社内に受け入れられるものでもない。それよりも、現場のスタッフが輝き、ビジョンの実現に向けて一緒に作り上げていくことがまず重要。そして、その過程の365日の試行錯誤によりブラッシュアップされていく結果こそが、ブランディングの基盤の仕組み。その先に、やっとお客様の頭の中に理想のブランド像を作り上げていくことができる。つまり、最も重要な活動とは、「コンセプトの発案」ではなく、ビジョンの実現のために、来る日も来る日もお客様の表情や反応、行動、また細かく来店データを見ながらオペレーションを高速PDCAし続けることにあるということ。そして、何よりそこで働くスタッフたちが輝く仕組みを作ること。それこそが「ブランドを作る」ということに他ならない、ということを教えてくださいました。この繰り返しが「サードプレイス(第三の場所)」を現実のものにし、さらに「外で歩いてコーヒーを飲む」「カップにサインを書く」など、様々な文化を生み出したのです。
リブランディングするぞ!となると、「変革すること」ばかりを考えてしまい、「大きく変化することが目的化されがち」ではないでしょうか。どうしても、新しいアプローチを発見することだけに囚われることが多くなってしまいます。その視点は斬新か?新しいか?今までと違うか?これらの問いが飛びやすい。しかしリブランディングにとって本当に重要なことは、そもそも現在設定されているストーリーや、思想、理念を徹底して実行し、すべての接点で最大限実施されているかどうか?そして、そこで働く人たちは輝いているのか?について、改めて注視すべきだということです。さらに、そのシステム(仕組み)を作り上げることが何より大事だと言うことが見えてきます。スターバックスも、SABONも、そうだったように。海外のブランド事例ばかりになりますが、日本のブランドにも、よく考えられて作られているものは多くあります。しかし、あるべき姿やビジョンが存在するのに、それが社員に伝わっておらず、また可視化すらされていないというケースをよく目にします。まずはこれを見える化し、徹底的に伝え、現場で365日高速PDCAをやり切ることから始めるべきなのかもしれません。リブランディングとは、そういった毎日のオペレーションから立ち上がってくるものなのです。
SABONというブランドを取り上げれば、イスラエルの文化や世界観と思想、また当時日本にはなかった「店で試しに手を洗う」という特別な体験が、徹底的に全ての店舗で均一にオペレーション実行されているかどうかということにトライされています。そして、その時にどう声をかけ、どのくらい誇りを持ってお勧めできているか?これを良質な顧客体験に落とし込めているか?ここに徹底したオペレーション力が試されます。しかも、SABONでは顧客体験価値を高める現場教育だけでなく、わざわざイスラエルから手を洗う石のモニュメントを輸入し、手を洗う体験そのものを、思想の伝達手段として特別なものにしています。ガラスの瓶でできたプロダクトも、デザインも、あえて日本的にしたり、輸送の安全性を考慮したプラスチック性にしたりせず、徹底して本国の世界観と思想を落とし込んだそうです。
これらも結果だけを見ると、革新的なアイデア?イノベーティブな発想?に見えますが、同じく365日のオペレーションの中から、ビジョン達成のために必要となるアイデアが生まれ、毎日の中で実現されていったのです。まさに、やり抜いた先に“新しい文化”は生まれてくるということなのです。スターバックスと同じく、決して広告や宣伝、パッケージやロゴマークだけではブランドは醸成できないということを改めて実感させられます。スターバックスも、日本上陸以来、一度もテレビCMすら投下したことがありません。ブランドは広告では作れないことの証明でもあります。
当社は、リブランディングの専門ファームとして様々なご相談をいただきます。改めて、現状皆様が設定されている戦略が最適かどうか?だけではなく、施策そのものが、実際にオペレーションとして現場に再現性のある形で反映されているかどうか?ビジョン達成のためにPDCAはやり切れているのか?をまずは検証し、一貫してサポートさせていただきます。そして、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)という言葉もあるように、全てが自社で完結できずとも、それらを外部のパートナーと共にブランド体験を作り出すことは可能です。引き続き、我々YRK&のリブランディング、そして「365日のオペレーションのご提案」にご期待いただければと思います。
参考著書:黒石和宏氏 『人が輝くサービス』