2021.06.07
Z世代が購買力を持ち始める時代になり、彼らの、“社会的に有名であるかどうか”よりも“自分にあうかどうか”で購買ブランドを決定するという価値観が様々な調査であきらかになってくるにつれて、「共感」消費という言葉を多く目にするようになりました。
またこのコロナ禍でクラウドファンディングなどによる「応援」消費も増加しています。
つまり、以前のようにブランドと生活者は相対している関係ではなく、生活者をブランドというチームの構成員として迎え入れた関係性 が求められています。
これにより、ブランディングの目的も生活者との共創関係を構築することへと変化する必要があり、マーケティングや広告宣伝の延長でブランドを「購入してもらう」ことを前提としたブランディングは社会の価値観との乖離を生んでしまうことになってしまいます。
ブランドを購入したファンがブランドと一緒に、新たな商品やサービスを生み出し続けていけるような対話や参加の場を仕組み、作り上げることこそが重要です。
社会の価値観に合わせて共創型ブランドへと変革するということは、これまでのように商品やサービスの中身だけで考えるのではなく、事業全体を捉えてビジネスモデルからリモデルすることも視野に入れたブランディングでなければなりません。
まさにビジネストランスフォーメーションだと言えます。これまでのブランディングの次元を超えた枠組みでの取り組みとなるのですが、それを実現するためには3つのポイントが大切だと考えます。
KGIを売上にしているままで、「どれだけ売るのか」を追い求める限り、生活者と相対する古いブランディングの域を超えることはないでしょう。
そうではなくて、購入を生活者とつながるきっかけとして、それ以降の関係性の構築に注力しLTVを高めていくことを使命としなければ、共創型の仕組みに対する投資インセンティブが生まれません。
ビジネスモデルを“売切りモデル”から“つながりモデル”へと変革するには、KGIを売上からLTVに変えるところから始めなければなりません。
ECやブランドサイトなどオンラインでの接点のみならず、店舗などのオフラインでの接点においても、うまくデジタル技術を組み込むことで、顧客の情報や生活者の反応を定量的につかむ仕組みを作ることが重要です。
最適なサイズやカラーを1to1で提供することで顧客満足度を高める一方で、顧客情報や来店者の反応を顧客にストレスをかけずにデジタル技術で吸い上げる仕組みをもつブランドは多くなっています。
変化の時代に高いアジリティをもったブランドはこうした生活者との対話で、その変化の予兆をいち早くキャッチし柔軟に変化できるブランドであるといえます。
多くの企業がそうであるように、商品開発部・マーケティング部・営業部…という縦割り組織で、マーケティング部門にブランディング推進を委ねるのではなく、ブランドに関わる全ての部門がそれぞれの専門的立場から、どのような接点で、どのような価値を提供できるのかを、生活者視点で横断的に考えなければ、現状のビジネスモデルからの変革は不可能です。
一方で、これまで部門ごとに別々の視点でブランドに関わってきたからこそ、そのやり方を改め横断的かつ生活者視点でブランディングを推進することで非連続的成長につながる可能性も高いといえます。
このような前提の改変に対して、目的、手段、実行主体の全てをゼロベースで見つめ直すことが必要であり、より本質的なブランディングが求められていると言えます。
しかし、こうした場合、変革を目的にしてしまいがちですが、目的はあくまで「生活者にとってブランドの価値を最大化すること」です。それを追求すると、ブランドの状況に応じた共創型モデルの形が見えてくるはずです。
目的と手段が逆転しないように、生活者をよく観察し彼らと同じ目線で思考して、あるべき姿からのバックキャスティングで考える必要があります。そのプロセスは下記の通りです。
「そもそもこのブランドは何のためにあるのか?」を改めて問い直し、生活者にどんな価値を提供するのかを研ぎ澄まします。
データからでは読み取れないような課題をいかに見つけるかが重要です。顕在化された課題への対処を行うのではなく、生活者を観察して隠れたニーズを満たす「あるべき姿」を可視化することによってメンバー間でゴールイメージの共通認識を築きます。
コロナによってライフスタイルが変化した現在の生活者の目線から、前例にとらわれず「あるべき姿」を実現する顧客体験をデザインします。ローンチ以降のビジネスを考えると、とにかく生活動線で多くの接点を築き、リアルでもオンラインでもデジタルでの体験機会を盛り込むことは必須であるといえます。
デザインした顧客体験を具現化するビジネスモデルを実装化したプロトタイプで、まずはスモールスタートで検証。この実験力こそ、変革に必要な組織の力です。
私のこれまでの経験上、②の段階においては、商品やプロモーションの中から課題を見つけようとしがちで、根本を揺るがす価格やチャネルには敢えて触れないというケースが多く見られます。
このように、触りにくい部分を避けてブランド都合で議論してしまうと、本質には迫れません。聖域を作らず、思い切ってメスを入れられたブランドほど非連続的な成長につながっています。
本質を追求し、ブランド変革を実行できるチームに見られる共通項は、とにかく雑談の多いチームであることだと思います。特に至上命題のように変革を求められる世の中において、論理的に最短距離を急ぐのではなく、毎回のプロジェクトミーティングが一見無駄に感じられるぐらい、話が脱線するぐらい盛り上がるチームほど、間違いなく自然と議論の深さが増して、新たな課題や機会の発見につながりやすいものです。
こうした意味のある無駄の積み重ねが、ブランドの人格となってにじみ出て生活者に伝わり、共感が生まれるのではないでしょうか。ブランド力=(ブランドに関わるチームの)人間力と捉えても、言い過ぎではないかもしれません。
これまでブランディングをエクスターナルブランディング(アウター向け)と、インターナルブランディング(インナー向け)に区別することがありましたが、もはや表裏一体で初めてブランディングといえる時代なのではないでしょうか。
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