2021.05.14
『自分の牛と他人の牛を識別するための焼印(burned)がブランドの語源である』
この逸話は多くの人が知るところでありますが、ブランディングはまさにこのエピソードの通り商品や企業の“識別化・差別化”を実現するための活動を指す言葉です。その活動の対象者が生活者や購買者の場合はBtoCブランディング、企業・若しくは企業の担当者の場合はBtoBブランディングと大別されるわけですが、多くの企業様とお話しさせていただくとブランディングとはBtoCのためのもの、という間違った理解がまだまだ蔓延していると感じます。
“識別化・差別化”は対象者が異なれど重要であるのは間違いないはず。それなのになぜこのような誤解が生じるのか、まずはそれを紐解くところから始めてみましょう。
「産業機械や技術サービスなどをはじめとした、日本のBtoB企業と競合しても技術力・対応力・熱量の一点突破なので非常に戦いやすいし、勝ち筋を見出しやすいのです。」
これは、とある外資系BtoB企業の担当者様が私に仰られた言葉です。
技術力と対応力と熱量。日本の多くのBtoB企業のブランドサイトや販促ツール、営業資料などに目を向けてみると、技術力の高さや圧倒的なサポート体制、企業の真摯な姿勢を全面的に押し出した訴求がよく見られます。本稿をご覧いただいている皆様にも心当たりがあるのではないでしょうか。
もちろん、これは否定されることではなく日本企業固有の特長であるともいえます。にも関わらず“戦いやすい、勝ち筋が見出しやすい”と評される要因は何なのでしょうか。
ここに国内外共通の生活者の価値観変化をまとめた図表があります。
・機能的な物性価値を重視するミレニアル世代以前の生活者
・エモーショナルな情緒的価値を重視するミレニアル世代以降(Z世代含む)の生活者
この2つの生活者の間には価値観に大きな差異が生まれます。特に日本企業、市場は圧倒的な技術力と対応力、そしてそこから生み出される高品質商材・サービスを武器に、ミレニアル世代以前の生活者と密接な関係を築き、ともに成長してきました。しかしそれ以降、国内市場は大きく様相を変えそれを取り巻くニーズや生活者自身の価値観も変容。2025年には世界の労働人口の75%を情緒的価値を重視するミレニアル世代以降が占めると言われているなか、技術力などの機能的な物性価値を通して得た成功体験や前例から抜け出せないでいる状態であると言えるのです。
ただ「それらは生活者(購買者)の価値観変化であってやはりBtoBには遠い話だ」そう思われる方もおられるかもしれません。しかし、その認識こそが外資系ブランドに“日本のBtoB企業とは戦いやすい”と評される要因であり“ブランディングとはBtoCのためのものだ”という誤った認識の根本原因であると言えます。
間違いなくいえることは、仮にビジネスモデルがBtoBであったとしても、最終的にブランドや企業を認知し検討し決定するのは、機能的価値だけでない情緒的価値も重視する“人間”であるということです。
これはGoogleとマーケティング会社MotistaがBtoB企業36社、延べ3000人を対象に行った調査からも如実に読み解くことができます。
When a personal consumer makes a bad purchase, the stakes are relatively low. Best case, it’s returnable.. Business purchases, on the other hand, can involve huge amounts of risk: Responsibility for a multi-million dollar software acquisition that goes bad can lead to poor business performance and even the loss of a job. The business customer won’t buy unless there is a substantial emotional connection to help overcome this risk.
(生活者が買い物で失敗しても被害は軽微だ。返品も効くことがある。しかし、ビジネスにおける購買においては多大なリスクが伴う。数億ドルもするソフトウエアの購入にかかる責任は業績悪化や担当者の失職さえ招きかねない重大な事象だ。このリスクを克服するために情緒的なつながりや魅力が無ければBtoB顧客は購買行動を起こさない)
そしてもうひとつ。『取引を行っているBtoB企業に対して独自のメリットを感じ、またそのメリットを十分に理解しているか』という質問に対しては、実に86%の顧客が“NO”を突き付けたのです。これはBtoBの企業にこそ“識別化・差別化”いわゆるブランディングが必要である、という答えそのものでもあるのです。
出典:CEB 2009 Customer Experience Survey
これはBtoBの企業にこそ“識別化・差別化”、いわゆるブランディングが必要である、という答えそのものでもあるのです。
BtoBにはブランディングは必要ない。こういった誤った認識のもと、過去に得た成功体験に依存し技術力や対応力など機能的な差別化を突き詰め、研究開発や人的リソースに多大なコストを投下。それが、知らず知らずの間に価格競争に陥り、“日本のBtoB企業と競合しても戦いやすいし、勝ち筋を見出しやすい”と評されてしまう、そんな負のスパイラルが生み出されるカラクリです。
弊社では数百にも及ぶ企業様をコンサルテーションさせていただいておりますが、様々な価値観や多様性、ニーズも多岐にわたるBtoCブランディングと異なり、ステークホルダーが限定されるBtoBブランディングのほうが実はシンプルなのです。
1.顧客のニーズやコンディション、自社の価値や資産となり得る要素の棚卸し
2.自社のありたい姿を定め判断基準を作る
3.ありたい姿を軸に世の中や顧客のどのような課題を解決したいか妄想する
4.BtoBにおける情緒的要素も含んだ提供価値、コアコンピタンスを定める
5.ブランディングシナリオ、ロードマップを定める
6.実際に活動し、ブランドを体現していく
このわずか6ステップ。そしてこの中で間違いなく肝となるのはステップ6の“ブランドの体現”です。ステップ1~5についてはいわゆる『WHAT TO SAY』。自社ブランドをどう言うかであり、ここまでは比較的とんとんとリズムよく進行します。一方ステップ6はいわゆる『WHAT TO ACT』。自社ブランドをどう体現し、どう活動するか。このフェーズに差し掛かった途端にプロジェクトスピードは一気に減退します。
この理由は明白で、一つ目はリーダーシップを取って自社ブランドそのものを牽引し、意思決定できる人材がいないこと。そして二つ目は実際にブランドを体現、活動していく社員にブランディングの戦略そのものを浸透させる術を持っていない、ということ。そしてこれらの課題に共通しているのはBtoBブランディングにおけるプロジェクトデザインに問題があるということです。
例えば一つ目のリーダーシップ人材の課題を解消するために弊社では、「RACIチャート」など様々なフレームワークを用いて、プロジェクト内容に応じた最適な進捗管理を図ります。これは責任の所在を明らかにするのはもちろんのことながら、BtoBブランディングに関わる人員や社員の“決心と結束”を作り、プロジェクトそのものに推進力を生むのに有効です。
続いて二つ目の、実際にブランドを体現、活動する社員への浸透課題については、弊社ではプロジェクトそのものを役員や決裁権を持つ人員のみで進めることなく、グループリーダーや課長・係長など現場社員と近しいレイヤーの人材をアサイン。ともに課題を認識し思考を行う共創型プロジェクトをデザインすることで社員一人一人に当事者意識を植え付け浸透を図っています。前述した通り、BtoBにおけるブランディングの必要性や重要性がまだまだ認知されていない状態の中、決まったものや戦略を現場に下ろす、という旧態依然の手法を行っていては、それこそ効率的にシームレスにブランディング戦略の浸透を図ることが難しいためです。
ここまで色々とお伝えして参りましたが、逆説的に言えば取り組んでいない、必要性を感じていない企業が多いからこそ、効果が顕著であるのもBtoBブランディングの醍醐味であると言えます。そして売上拡張はもちろんのことながら、“識別化・差別化“を行うことによって「人材採用」や「組織の求心力強化」など、企業そのものの本質的な価値をボトムアップさせる魅力を秘めています。
コンサルティングファームである我々もBtoB企業。視覚記号やプロモーションが重要で、ブランディングが不在(必要なかった)であったヤラカス舘時代から、ありたい姿として理念を策定し独自の価値を抽出。ブランドサイトの再構築、インサイドセールスの実施、セミナーでジェネレーション・ナーチャリング、人材育成やスキーム開発を行い『YRK&』としてBtoBブランディングを体現してきました。
企業様独自でBtoBブランディングを進めていただくことも可能ではあります。しかし、弊社のようなコンサルティングファームが介在するからこそ、言いにくいことが言える、数百を数えるコンサルテーション経験から導き出したスキームを活用しながら売上に繋がるブランディングが行える、様々な業種・業界の事例活用で社員の方々の当事者意識の装着やスキル知見のボトムアップを図ることができる…などなど、あらゆるメリットがあるのも事実です。本稿に少しでも興味をお持ちいただけましたら、まずはお気軽にお問い合わせください。
皆様とお会いできる日を心待ちにしております。