顧客との関係が一変する「コロナ後」

2020.03.09

#顧客との関係が一変する「コロナ後」


コロナ後こそ「ソーシャル性」が問われる

コロナウイルスによる経済への影響の長期化が心配され、企業にとっても大きな不安材料になっています。だから「SDGsどころではない」「社会問題の前に自社問題だ」というのが本音だと思います。しかし生活者は違います。この新型コロナウイルス問題が、生活者の「ソーシャル性」をより目覚めさせ、「ソーシャルプロダクツ」の価値を一層高めることになるからです。

現在(3/16)はいまだ感染者が増え続け、マスクが買えず、全国の学校の休校も続き、マズローの5段階欲求で言えば、今は「安全の欲求段階」まで私たちの欲求レベルは下がっている状態とも言えます。不安がデマを呼び、トイレットペーパーをはじめとした紙製品が売場から消えてしまうという事態まで起きました。しかしコロナウイルスは間違いなく終息します。その時に、生活者や顧客との関係が大きく変わる構造変化が起こると考えています。そこで私たちは、どうV字反転攻勢をかけるべきかを考えてみました。

「ニーズやウォンツ」から「意味や価値」へ

マスクだけでなく、中国の工場が閉鎖されているため、多くの企業で商品が十分に供給されないという問題が起こっています。しかし見渡してみれば、一部の商品を除き、「コロナ前」と変わらず売場にはモノがあふれています。生活者は感染防止のために外出を控え、インバウンドは極端に減っているため、消費は落ち込んでいますが、ほしいモノがあればいつでも買いに行ける状況は変わっていません。ですからコロナ問題が終息したからといって、待ちに待ったように急に消費が回復するというものではありません(TDLなど、待ちわびているファンを持つサービスは別でしょうけど)。心理的にもモノに不自由しない社会と生活が戻ってくると、マズローの「安全の欲求」から一気に「自己実現」、またはより高次な「利他の欲求」に跳ね上がります。それは、スペックや性能・効能・イメージといった「他商品との違い」ではモノを選ばない、ということを意味します。モノとしての品質が担保されていれば、その上で「共感」したり「応援したい」と思ったり、「感動した」といった「感情」や「思い」で選ぶのです。つまり「ニーズやウォンツ」ではなく、「意味や価値」によって選ばれるということであり、この変化はすでに起こっていたのですが、「コロナ後」にさらに大きく劇的に転換するでしょう。

トイレットペーパー不足で見えてきた「共感・応援・投票・感動」

モノ不足の中での消費スタイルの大転換を、印象付ける出来事がありました。「デマによるトイレットペーパー不足」です。各地でトイレットペーパーが品切れしていることを受け、「トイレットペーパーは国内で製造されており、在庫も十分にあるので心配しないで」と報道されましたが、パニックはなかなか沈静化しませんでした。ところが丸富製紙が3月2日のツイッターで「当社倉庫には在庫が潤沢にございますので、ご安心ください!」と写真付きで投稿すると、13.7万リツイートと瞬く間に拡散し(写真1)、このメッセージに共感し、沈静化を呼びかけるツイートが日本中を駆け巡りました。

この後も丸富製紙は、トイレットペーパーを積んだトラックが工場を出発する動画などを投稿し、この動画は106.5万回も再生され、丸富製紙を応援するメッセージが数多くツイートされました。トイレットペーパーを生産する製紙メーカーで、SNSによる発信を行ったのは、丸富製紙だけだったようです。しかし丸富製紙も、この「在庫」ツイートの前は昨年の10月と9月のキャンペーン告知、その前が第1回目のツイートとなる「4月1日入社式」なので、SNSを使ったコミュニケーションを常時行ってきたわけではありませんでした。ところが、今回のこの一連の騒動の中で、たった数回のSNSによって生活者の多くを味方につけたのです。丸富製紙のトイレットペーパーは、その後イオンのいくつかの店舗で大量に陳列されることになり、一層SNS上では拡散していきます。拡散したツイートを見ていると、単に不足していたトイレットペーパーを買うという行為ではなく、共感と称賛・感謝とともに、購入されていることがわかります。これはモノの良し悪しや価格ではなく、「意味や価値」で選んだり勧めたりしている証拠です。

<写真1>

twitter

「誠実さ」とは「透明性」

博報堂の「2017年生活者の社会意識調査」(グラフ1)で、興味深い結果が出ています。それは「社会や環境に不誠実な企業の商品は買わない」人が66.1%もいるということです。
この「誠実」「不誠実」とは、何を指しているのでしょうか。

<グラフ1>

社会貢献活動への意識について

ソーシャルプロダクツが支持される背景に、「透明性」があります。原料の調達先、成分や配合、製造のプロセス、さらには作り手の思いや苦労などを公開することです。その中には、まだ解決できていない課題や問題があるということも、思いと共に隠さずに公表することが大事で、この「透明性」が「誠実さ」につながるのです。

トイレットペーパー不足で誰もが不安な時に、丸富製紙の「在庫あります」ツイートや「トラックが出発する」だけの動画が拡散したのも、こうした舞台裏を公開した「透明性」に「共感」した人が多くいたということです。逆に言えば、舞台裏が見えないことは隠しているわけではなくても、「不誠実」と見られかねないということでもあります。

生活者・顧客との関係をカウンター型に変える

「透明性」を高め「誠実さ」を追求するにあたって大事なことは、「作る側・売る側」と「買う側」というこれまでの関係を、「仲間」「パートナー」「チーム」「コミュニティ」という関係に変えることです。

今までの「作る側・売る側」と「買う側」という関係は、言いかえれば「テーブルに向かい合う」関係です。お客様になっていただくために情報を提供し、その情報の中で商品を選んでもらうという関係で、常に情報は売り手が提供するものでした。しかし、「仲間」「パートナー」「チーム」「コミュニティ」の関係は、企業や商品が生活者と同じ側に座って、同じ方向を見つめ「カウンターに座る」関係です。お互い対等に同じ方向(未来)を見つめ、「対話」によって共感しあう関係です。

ネスレのキットカットが、商品の一部の外袋をプラスチックから紙に変えました。チョコレートを包んでいる個包装はプラスチックのままなのですが、「それは品質保持のため」と理由がついています。ツイッターで「#キットずっと」と検索すると、キットカット顧客が、紙の袋で折り紙を作って写真をアップしたり、紙の袋に変えたことに共感したり感謝したりというツイートが数多く出てきます。中でも興味深いのが、プラスチックの個包装のことに触れ「品質の保持のためなんだ」とか「できることからはじめてくれて、ありがとう!」などのツイートが多く見られることです。つまり紙袋に変えたキットカットの、マイナス部分であるプラスチック個包装が、受け入れられ共感や感謝にまでなっているのです。生活者・顧客と同じ方向を見つめ共感しあうためには、良いことだけなく課題や問題点も公表する「透明性」が大事だということがよくわかる例です。

「コロナ後」に今から備える

「コロナ後」、生活者や顧客と同じ方向を見つめ対話するために、たとえば食品メーカーであれば、コロナ問題で苦しんでいる飲食店を、顧客と一緒に応援するために、売上の一部を寄付するキャンペーンを企画するとか、自社商品を使ってもらっている飲食店へのご招待キャンペーンを実施し、みんなで食べて還元しようという企画などが考えられます。部品が足りなくて生産や出荷に困っていたメーカーであれば、急きょ日本の部品で作ったものや、今ある限りの在庫で対応していることを表明しつつ、生活者や顧客からの意見や感想を聞く。それが共感や応援消費につながっていくものだと考えています。このように、一方的に情報発信するだけでなく、生活者や顧客の意見や感想・アイデアを対話型で集めるプロモーションは、SNSを利用すればすぐにできます。

コロナウイルスによって働き方が一気に変わると言われています。デジタル化も進むでしょう。そこにもう一つ付け加えるなら、顧客との関係も大きく変わるということです。その準備は、今から必要です。

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株式会社 YRK and CMO / 取締役
兼 TOKYO代表
深井 賢一 Fukai Kenichi
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株式会社 YRK and CMO / 取締役
兼 TOKYO代表
深井 賢一 Fukai Kenichi

一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会 事務局長
1989年 株式会社 YRK and入社。マーケティングプランナーとして、食品・日用品・医薬品などのマーケティングやプロモーション、流通小売業の業態開発・売場開発に携わる。
現在はソーシャルプロダクツの適正な市場普及や、SDGsの本業化・ブランディング・コミュニケーション活用を企業に導入するためコンサルタントとして活躍。