値上げしても「売れる」7種のリブランディング

2024.10.15

深井賢一_値上げしても「売れる」7種のリブランディング



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本コラムは、新刊「売れる値上げ(青春出版)」の内容を一部抜粋し、執筆しています。

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"値上げ"の波が止まらない、本当の理由

2021年からブームのように押し寄せた値上げ。いまだに毎月のように「今月値上げされる商品」が品目数とともに報道されています。これらの報道には「原材料価格や物流費の高騰を受けて」と、値上げの原因や背景について触れられてはいますが、企業にとっては、値上げは後ろめたさを感じるもので、消費者にとっての値上げは家計を脅かすもの、という印象が強いようです。

消費者物価指数2020年基準の推移グラフ(総務省のグラフを加工)を見ると、コロナ禍とウクライナ戦争をきっかけに急激に上昇する2022年までの20年間、消費者物価指数はマイナスかほぼ横ばいであることがわかります。

消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)

グラフで見ると2022年からの消費者物価指数の伸びは異常にも見えますが、この傾向は今後も間違いなく続きます。

2022年の急激な値上げの原因は、コロナ禍とウクライナ戦争による原材料価格や物流費の上昇だと言いましたが、本質的な原因は、社会・環境問題です。

たとえば、燃料費の高騰はウクライナ戦争や中東を中心にした政情不安。人件費の増加は、脱貧困・人権問題・フェアトレードによるもの。水産物・農作物の高騰は、異常気象・海水温上昇によるもの。そしてそれらの対策として、様々な規制や認証が増えていることも企業にとってはコスト上昇の原因です。

ということはこの先、社会が劇的に良い方向に向かわない限り、上がることはあっても下がることはないコストなのです。

商品やサービスを通じて、少しでも社会や環境の問題を解決していくことは、これからの時代に必須です。そして、今の値上げの原因が社会問題や環境問題とその対策にかかるコスト上昇であるならば、魅力的で「価値あるもの」として適切な形で伝え、「値上げ」を付加価値へと昇華しなければ、今後事業成長は見込めないということになります。

しかし、そんな方法があるのか?
ここでは、その疑問にお応えしていきます。

値上げを付加価値に変える7つの仕掛け

「値上げを付加価値に変えるための7つの仕掛け(メソッド)」があります。

具体的に解説していきます。

「創業・理念・沿革・本業の価値を
見直す」

自社の理念や存在価値を社員が見直し再認識することで、社員が自社の商品や取り組みに自信を持ち、会社全体に良い影響と効果をもたらす仕掛けです。寝具メーカーの西川(株)「For S Project」と、テキスタイルメーカーの(株)サンウェル「見本帳循環システム」がその好例です。

寝具メーカーの西川(株)「For-S-Prject」

サンウェル「見本帳循環システム」

出典:西川(株)『For S Project』

出典:(株)サンウェル『見本帳循環システム』

「換算・変換する」

この仕掛けで成果を出した事例が、ニチバン(株)『セロテープ』です。『セロテープ』は、70年以上前に発売された商品で、特長は大きく変わっていません。しかも商品価格がプラスチック(OPP)テープに比べて高いことが、大量に透明テープを使用する流通小売業ではマイナスでした。

ニチバン(株)『セロテープ』

出典:ニチバン(株)『セロテープ』

ところが、流通小売業1社が「プラスチックテープ」から『セロテープ』に切り替えたことで、どれぐらいのCO₂の削減につながったのかを「換算・変換」し、HPで公表することによって、コストアップにつながる『セロテープ』への切り替えの意味を大きく変えました。
そのヒントになったのは、(株)大川印刷のHPです。

(株)大川印刷

出典:(株)大川印刷 HP

日本を見渡すと、規模の大小や業種にかかわらず、社会や環境問題に対して良い取り組みをしている企業がほとんどで、HPなどでは削減や成果の数字が並んでいます。しかし問題は、その数字を見てもピンと来ない、実感が持てないことです。ピンと来なかった数字を、ジブンゴト化し実感できる意味や価値に変換することで成果が出るのです。

「参加・参画しやすくする」

この仕掛けは、オリオンビール(株)の郷土や地方を応援できる「デザイン缶キャンペーン」や(株)湖池屋の「JAPANプライドポテト」、ゼブラ(株)「サラサクリップ赤い羽根」など。今の消費者が価値や魅力だと感じるものは、モノによる「景品」ではなく、社会問題や地域の問題に「参加」することだということを象徴している事例です。

社会問題や地域の問題に「参加」することだということを象徴している事例

出典:オリオンビール(株)『デザイン缶キャンペーン』

出典:(株)湖池屋『JAPANプライドポテト』

出典:ゼブラ(株)『サラサクリップ赤い羽根』

出典:カゴメ(株)『推しナポ投稿キャンペーン』

出典:(株)ナリタヤ『地元密着キャンペーン』

また顧客を「ナカマ」にして「ミカタ」にすることで、商品の魅力や価値を広めることができた例として、カゴメ(株)「推しナポ投稿キャンペーン」と(株)ナリタヤ「地元密着キャンペーン」があります。これらも顧客を参画させる仕掛けで成功した例です。

「最小限でも公表する」

経営者の方と話をしていると、影響や効果が小さいことをデメリットと考える傾向が強いことに気づきます。「少しのことしかやっていないのに、いかにもやっているように見せるのはおこがましい」という考え方です。しかし、時間をかけて大きな成果を出したことを伝えるよりも、まだ成果は小さいですが、「できること」を「ここから始めました」と伝えるほうが、「協力したい」「応援したい」「一緒に参加したい」と、人は好意的に受け取ります。その例がネスレ日本(株)の『キットカット外装紙化』であり、豊島(株)「ORGABITSプロジェクト」です。

『キットカット外装紙化』と豊島「ORGABITSプロジェクト」

出典:ネスレ日本(株)『キットカット外装紙化』

出典:豊島(株)『ORGABITS』

「地域・業界の問題こそ付加価値だと認識する」

私は地方でセミナーやワークショップを依頼されることが多いのですが、そこでよく言われるのは「うちは地方だから」「うちは中小企業以下だから」「東京でやっていること、大企業がやっていることは参考にならない」というものです。

そんなことは全くありません。地方や斜陽産業といった追い風を逆手に取った事例は意外と多くあります。(株)ネキストのブランド「UpcycleLino」、えひめ活き生きファーマーズ(株)『ベジソルト』、(株)GOOD NEWS『バターのいとこ』、(株)サンブンノナナ『金魚真珠』は、まさに中小企業が地方の問題・業界の問題を付加価値に変えた事例です。

中小企業が地方の問題、業界の問題を付加価値に変えた事例

出典:(株)ネキスト 『UpcycleLino』

出典:(株)GOOD NEWS 『バターのいとこ』

出典:えひめ活き生きファーマーズ(株) 『ベジソルト』

出典:(株)サンブンノナナ『SEVEN THREE (金魚真珠)』

「使った後を見せる」

この仕掛けは、和歌山の資源リサイクルセンター(株)松田商店が導入しています。プラスチックを容器や包材として大量に使うメーカーは、日本にも数多くあります。2019年にEUでプラスチックに関する規制や取り組みが強化されたこともあり、日本でも「プラスチックは悪」というイメージが強くなってきました。

しかしプラスチックは、密閉性・保存性に優れていて衛生的で安全で、しかも丈夫で軽くて安いというメリットがあります。しかもリサイクルもできるのです。ところがあるメーカーで「若い社員の最近の退職理由が『プラスチックを大量にばらまいている会社だから』というのがあって困っています」と相談を受けたことがあります。

サステナビリティを考える時、サプライチェーンに目を向けることは多くなりましたが、使った後の「サーキュラーチェーン」にも目を向けると、意外と知らなかった世界に、思わぬ発見や気づき、感動があるものです。松田商店の松田社長や社員のみなさんの思いと仕事ぶりを見れば、「プラスチックをばらまいている」という言葉はきっと出ないし、それが理由で退職することも無くなると思います。

和歌山の資源リサイクルセンター(株)松田商店

出典:(株)松田商店 『エコ商品』

「ストーリーを伝える」

そして最後に重要なことがこの「ストーリー」です。
自分たちが生み出した商品・サービスが、いかに魅力的で価値あるものとして伝わるか?ということです。ブランドストーリーとも言われています。

今までは、この商品はどんな機能があり、どんな成分が入っているか、何ができるかという「What」が重要でした。これからは、なぜ作ったのか、何のためにあるのかという「Why」。そしてどのようにして、誰が関わっているのかという「How」「Who」が重要になっていきます。

シチズン時計(株)『シチズン エル』、(株)サンブンノナナ『金魚真珠』、サラヤ(株)『Happy Elephant』はまさにその例です。

誰が関わっているのかという「How」「Who」が重要

出典:シチズン時計(株)『シチズン エル』

出典:(株)サンブンノナナ「SEVEN THREE (金魚真珠)」

出典:サラヤ(株)『Happy Elephant』

自信を持つと会社は強くなる

コストが社会問題・環境問題とその対策によって上がるのであれば、本来は社会全体でそれを負担していくべきです。

だからこそ、歯を食いしばって価格を維持したり、値下げをしたり、爪に火をともすような経費削減をしたりするのではなく、値上げを付加価値に変えることで、売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よしの商売にするべきなのです。これがコストを付加価値に変え、値上げが共感となる仕組みです。

そしてこれが、広告や販促などのいわゆる一時的な認知や売上を上げる一過性のプロモーション施策ではなく、長期的な視点で顧客との関係性を構築し、LTVを高めることが可能な「ブランディング」なのです。

本コラムでは7つの仕掛けをダイジェスト的に紹介致しましたが、新刊の拙著「売れる値上げ」(青春出版社)では、YRK&の実績を含む17社の成功事例をもとに「値上げ」を付加価値に変え、“愛されるブランド”になる仕掛けを余すことなく解説しています。

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コスト上昇=値上げを、上手に「付加価値」に変えて、企業・商品・サービスを「魅力的」にすると、「うちの会社」「うちの事業」「うちの商品・サービス」に、社員のみなさんが自信と誇りを持てるようになります。まさに、日本文化特有の「謙遜心」が「自信」に変わる瞬間です。

これが「値上げを付加価値に変える」第一歩です。そして日本の会社と社員のみなさんに、もっと自信を持ってもらいたい、そう願って本書を執筆しました。手に取っていただけると幸いです。


株式会社YRK and
常務取締役 TOKYO代表

一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会 事務局長
深井 賢一
Writer

株式会社YRK and
常務取締役 TOKYO代表

一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会 事務局長
深井 賢一

一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会 事務局長。1989年 株式会社 YRK and入社。マーケティングプランナーとして、食品・日用品・医薬品などのマーケティングやプロモーション、流通小売業の業態開発・売場開発に携わる。現在はソーシャルプロダクツの適正な市場普及や、SDGsの本業化・ブランディング・コミュニケーション活用を企業に導入するためコンサルタントとして活躍。