2023.01.11
ブランディングにおいて重要なのは、“統一性”ではなく、“一貫性”があるということ。
これは、我々がブランドコンサルティングをさせていただく中で、重要視しているポイントの一つです。
では、どうすればブランディングにおいての “一貫性”が生まれるのでしょうか。
それは、自分たち(ブランド)が、“何のために存在し”(存在意義)、“何を目指そうとしているのか”(あるべき姿) 、”独自の提供価値”(バリュープロポジション)は何かを明確に定めていることが絶対条件であると私は思っています。
そして、従業員の皆様が会社の意志・価値に不信感を抱くことなく、きちんと腹落ちできている状態が目指すべき組織の形ですよね。
このような全ての判断基準ともなる“確固たる意志”を持って、一貫した言動を従業員の皆様が行い続けた結果、ブランドに“らしさ”が生まれるのです。
今回は、「ヤッホーブルーイング」の事例を基に、“一貫性のあるブランドアクション” と、そこから見えてくる “インナーブランディングの関係性” を私なりに紐解いていきたいと思います。
Index
近年、ビール市場は縮小傾向にある中、19期連続増収を達成している他、独自性のあるブランドアクションを数多く実施し、ファンをはじめ様々なメディアでも注目されているクラフトビールの製造・販売を行っている「株式会社ヤッホーブルーイング」。代表商品の「よなよなエール」を飲んだことがある人は少なくないのでは?
「ファンマーケティング」を徹底させている文脈で、よくビジネス系の媒体でよく目にしますし、私自身も彼らが大事にしている経営の考え方や、マーケティング戦略についてよく勉強させられます。
そんな彼らが掲げるミッション・ビジョン・カルチャーがこちら、
※ヤッホーブルーイングのHPより引用
とても素敵な言葉です。この言葉からもヤッホーブルーイングがどういう会社なのか、誰しもがイメージが湧いてくるものだと思います。そして、私はこの企業が掲げる“夢”にこそ、ヤッホーブルーイング の“らしさ” を生み出す根源があると思います。
その“夢”がこちら↓
※ヤッホーブルーイングのHPより引用
私はこれを初めて見たとき、率直に「かっこいい」と感じたことを今でも覚えています。
ここから読み取れる大事なことは、何よりも夢が「シンプル」で「具体的(イメージしやすい)」であるということ。このような理念系の言葉は、企業業態によってはあえて抽象的な表現の方が良い場合もありますが、私は「シンプルかつ具体的な言葉」の方が全員の中での判断基準にしやすいため、適していると考えています。
そして、もう一つは夢に向かうための道のりが自由であること。
目標(ノーベル平和賞)と、そこに向かうための武器(よなよなエール)は明確ですが、たどり着くための道のりは自由に選択できますよね。つまり、従業員の皆様が「どうすれば “夢” を達成できるのか」をそれぞれで考える余白があるということです。
では、ヤッホーブルーイングは実際に一体どのようなブランドアクションを行っているのか?
数あるブランドコミュニケーションの中から1つご紹介いたします。
2022年8月にヤッホーブルーイングは、10年後と20年後に発売される“約束のよなよなエール”の予約を開始しました。その予約方法はなんと、“大切な人との未来の約束”をすること!発売日は10年後(2032年)と20年後(2042年)の7月7日(「よなよなエール」の誕生日)。
“いま”だけの売り上げを考えた販促プロモーションを実施すれば、ある程度の利益は見込めたかもしれませんが、ヤッホーブルーイングは“いま”ではなく“未来”を見据えたアクションをおこしました。
※https://yonayonaale.com/yakusoku-yonayonaale/
どのような想いからこの企画は生まれたのか…HPに、その“想い”が記載されていました。
私たちは大切な人との“未来の約束”によって、その約束を叶える瞬間までの過程そのものに活力を与えていると考えました。新型コロナウィルス感染症による行動制限や気候変動の影響による生活の不安など、未来に対して様々な不安が取り囲んでいる現代。そのような不安が渦巻く中で、前向きな未来へ後押しをしてくれる“約束”を届けたいという想い、その“約束”が叶った際には「約束のよなよなエール」で大切な人と乾杯して欲しいという想い、そして、ヤッホーブルーイングとして10年後、20年後もクラフトビールをつくり続けることを皆様に“約束”したいという3つの想いから、「約束のよなよなエール」を開発します。
※ヤッホーブルーイングのHPより一部抜粋
皆さんはこの”想い”を読んでどう思われましたか?私は、ヤッホーブルーイングは、ただの「クラフトビール会社」ではない、そう感じました。では、何を提供している会社なのか。
それは、ただクラフトビールの製造・販売を行っているのではなく、クラフトビールを通して「約束を叶える瞬間までの生きる活力、ひいては人々の幸せ」を提供しているのです。
実際に、てんちょ の井手直行(代表取締役社長)さんは、自社のことを以下のように紹介しています。
私達はただのビール会社ではない!
私達の活動を通して「ビールを通して幸せを感じる人」を増やしていきたい、ビールを通して幸せなファンが世界中に増えれば、きっと世界は平和になる。それは、ファンイベントでファンの皆さんが楽しく幸せな時間を過ごしている姿を見れば、これが世界中に広がった時、争いごとも無くなり、少なくともよなよなエールを飲んでいる間は幸せの時間を作り出すことができる。本気でそう思うのです。
※リクルートサイトより一部抜粋
先ほどご紹介した「約束のよなよなエール」事例と照らし合わせてもわかるように、ヤッホーブルーイングの“夢”が本気であることが強く伝わってきます。
ヤッホーブルーイングは、夢を達成するために「独自の提供価値」を明確に設定し、生活者・ユーザーの心を満たす体験をしっかりと提供しているのです。
そして、このブランドアクションは、ファンの皆様に対して「生きる活力」を提供するだけでなく、しっかりとインナー(社内)に対しても働きかけています。
※ヤッホーブルーイングのHPより一部抜粋
ヤッホーブルーイングは何より、「ファン」の存在を大切にしている会社です。
そのファンの皆様の「生きる活力」を生み出し続けるために、彼らは10年後・20年後も“ビールを作り続ける決意”をブランドアクションを通じて表明しているのです。
「10年後に家族みんなで新しい家を建てようね」
「無名の僕らが始めた会社で、10年後笑顔で乾杯しよう!」
「20年後も親子で旅行に行こうね」
※公式ムービーより抜粋
上記のような実際に応募があった方々の“大切な人との約束”を目にしたとき、皆さんがヤッホーブルーイングの従業員という立場であったら、どういう風に感じますか?
「自分たちは、ビールを製造・販売するために働くのではない、この人たちのために、ビールを通して人々の幸せ・希望、生きる活力を生み出すために働くんだ!」
このように、自分の仕事に“誇り”と“働く意味”を見出すことができると思ってしまうのは、私だけでは無いはずです。
“約束”というキーワードを活用し、アウターだけではなく、インナーに対しても「生きる活力」を提供している素晴らしい事例ですよね。キャンペーン・プロモーション(ブランドアクション)は、販売促進を促すため(アウター向け)だけに行うのではないということを、忘れてはならないと改めて感じたとても良い事例です。
ブランドの “一貫性”を生み出すために重要なポイントは、冒頭でもご紹介しましたが、ヤッホーブルーイングの事例を考察していると、もう一つポイントが見えてきました。
■自分たち(ブランド)が、
“何のために存在し、世の中に何を提供し、何を目指そうとしているのか”
が明確に定まっていること(ブランドの”存在意義”、”独自の提供価値”、”あるべき姿”)。
■従業員の皆様が会社の意志・価値に不信感を抱くことなく、
きちんと腹落ちできている状態であること
+
■その状態をつくる為には、従業員の皆様が、
自分たちが会社で働いている理由・意味に、気づかされるきっかけを作ること。
創業時の彼らは、海外のパブで出会ったビールの味を日本に広めたいという想いをもとにエールビールを開発し、製造・販売を行ってきた「クラフトビール会社」でした。ファンの皆様に「美味しいクラフトビール」を提供したいという一心で、品質向上に努め「より良い商品」を生み出し続けています。それは、現状に満足せず、商品を開発・販売を行ってきた従業員の存在があってこそ実現できたことです。
その仕組みを持続するためには、従業員の皆様に「この会社で働き続けたい」という想いを抱いてもらう必要があります。
皆が共感できる”夢”を設定し、共感し続けてもらうためのアクションを行い続けている「ヤッホーブルーイング」は、クラフトビールを中心とした様々な活動を通じて、「多様な幸せを提供している会社」とも言えるのではないでしょうか。
さて、皆さんの会社は“何を売るブランド”になりたいですか?
そして、その意味・理由に”共感してもらえるアクション”はおこしていますか?
この問いを探究する“きっかけ”として本コラムを読んでいただければ幸いです。
writer
岡本 浩輝