2022.09.05
ビジネス活動をするなかで、「ストーリー」という言葉が頻出するようになりました。
広告、PRなどはもちろん、多くのビジネスパーソンにとって身近なプレゼンテーションですら、「ストーリーテリング」の技術を活用することでより人にわかりやすく伝えられると言われます。
あらゆる企業のブランディングのお手伝いをさせていただく我々にとっても、その言葉はプロジェクトを前に進める上で切っても切れない存在です。
巷に出回っている関連本のバラエティの豊富さを見ても、その言葉の流通量は明らかですね。
しかし皆さん、このような疑問を持ったことはありませんか?
「ストーリーって、要するに物語のことでしょう?小説や映画、ドラマやアニメ、舞台など、これらにそのストーリーが大事なのはわかるけれど、なぜビジネスやブランディングに活かせるの?」と…。
…このような着眼点を持たれた方は、すばらしいと思います。
なぜなら、ストーリーとはそもそもどういうものなのか、という“本質”を見ようとする姿勢をすでにお持ちだからです。
そんな姿勢をお持ちの方々へ、今回は“ストーリー”をビジネスに上手く活用することによる、ブランド戦略の可能性をお伝えできればと思います。
先ほど、小説や映画、ドラマやアニメ、舞台などにとってストーリーは大事だと言いました。でも実は、私たちはそういった物語性を持ったエンターテインメントに触れるとき以外にも、ストーリーに触れていることを知っていますか?
たとえばニュース。Yahooニュース!ではトピックス見出し文字数が15.5文字に設定されています。これは「見出しを認識する速さ」と「正確に内容を理解できるか」ということを基準に文字数制限が設けられているのです。そして、その次には「前文」「記事」と続き、レガシーメディアといわれる新聞の時代から、今でも変わらない構造となっており、読者の“感情設計”を考慮した作りを意識されています。
さて、ここで大事なのは“感情設計”です。まず「え!?」という驚きを起こし、次に「へぇ〜」という感情に移して、最後に「なるほど!」と思わせ、読者をどんどん引き込むように作られているのです。
話のうまい人っていますよね?例えば「結論から先に話す」というような例がありますが、ただ単に、結論を先に話している訳ではないと思います。最初に結論を言うことで、発見による驚き「え!?」をつくり、そして理由やポイントを話すことで「もっと知りたい!」と思わせ、具体例、結論、と続けることで「なるほど!」という納得感を生んでいるのです。
私たちは消費者として日常的に、意図的に感情設計がされた価値に触れており、そうして作られたものこそ「わかりやすい」と感じています。それは、エンターテインメントのストーリー作りでもっとも重要視されていることが「観る人の感情設計をすること」だからです。起承転結などは最たる例ですね。例えばストーリーがわかりにくかったり、つまずいてしまうと、違和感が残りその先の話が中々入ってこず、観た後の満足感も薄れてしまいませんか?これは「観る人の感情設計」が不足しているからなんです。
つまり、ストーリーを作るということは、感情を設計することだと言っても過言ではないのです。人に何かを伝えるときにもっともわかりやすい形として“ストーリー”が日常的に使われているからこそ、あらゆるシーンに活かすことができ、それは企業活動においても例外ではありません。
バブル絶頂期の80年代後半、日本がマーケティングを“他社より優れた製品をつくり、提供すること”と考えていた中、その様子を外から見ていたアメリカ人は、マーケティングを“他社より優れた広告をつくること”と理解していたと言います。
その当時の日本企業の多くが、機能が他社より優れていれば業績は上がると考えていたし、実際それで何年も通用していました。しかし時代を経て、失われた30年と言われるほど経済成長率の乏しい現在の日本の環境下で、日本企業はどのように自社の商品やサービスに向き合っているのでしょうか?
上図のアンケート結果をみると、自社商品を開発する上で差別化を図るには、“ストーリー性”が重要だということも課題として感じるようになってきています。ただ、どうすれば良いのかがわからないと、多くの企業が悩んでいるようです。
感情設計を行い、ストーリーとして自社やブランドの魅力を伝える。そのメリットの一つには、新規顧客に売り込んで説得し、労力を費やすのではなく、消費者がスムーズに納得して購入するようにする流れをつくり、顧客満足度が上がるということが必要でしょう。
しかし、それだけだと市場における競合との差別優位性を作るには少し物足りません。このメリットについて、PR業界で有名な本田哲也さんの著書内に本質的な考えが示されているので、少しご紹介したいと思います。
「いま起こっているのは、「買う理由」同士の戦いなのだ。
情報洪水と消費飽和の時代には、商品そのものの差別化はおのずと難しくなる。「物欲」のあり方も変わる。消費者の可処分時間の取り合いが激化し、「敵」は同一カテゴリー内のライバルとは限らない。だから、商品やサービスそのものよりも「買う理由」のほうが重要になっていく。
そもそもソレが必要なのか。必要性があるとしたら、なぜそれが必要なのか、という理由だ。」
引用:6RULES 世の中を動かす新しい6つの法則 / 著:本田哲也
そう、消費者が欲しいのは、それを買う理由であり、買う意味なのです。
決して、「機能ではなく情緒の方向性で勝負をしなければならない」と言っている訳ではありません。機能自体をしっかりと“意味”に変換しつつ、情緒といっしょにストーリーに盛り込むようにして、総合的にブランド価値を高めていくことが必要なのです。
いよいよ本記事も最後に近づいてまいりましたので、「それを買う理由づくり」「機能と情緒でストーリーを作る」がうまくいったブランディング事例を一つご紹介したいと思います。その代表として挙げられるのがパナソニックの白物家電の新たなコンセプトとして生まれた『ふだんプレミアム』。
それ以前は省エネ技術をベースにした製品の訴求をしていましたが、消費者ターゲットの価値観の転換を機に、ライフスタイルの提案へと舵を切ることになりました。そのタイミングで生まれたのがこのコンセプトです。
ここで最後のポイントです。ストーリーをつくる上であらゆる要素が組み合わさり、感情設計がなされたとき、消費者の中に生まれるものは何か…?
それは「共感」です。
映画やドラマなど、その登場人物に起こる出来事に自身の気持ちをのせられればのせられるほど、そこには「共感」が生まれます。ストーリーである以上、同じ原理がビジネス活動でも活用可能です。
『ふだんプレミアム』は、「普通を高めるというキーワードで、日常をプレミアムにする」という要素や、「ステータスよりも自分の好きなものと暮らすことを重視する」という要素で、世界観やストーリーを醸成することに成功しています。
また、コンセプトを体現する製品の一つが、キューブ型のななめドラム洗濯機「Cuble」です。直線的でシンプルな機能デザイン「キュービックフォルム」が、空間価値を高めて日々を充実させるモノとして、ストーリーをさらに豊かにしています。
他にもさまざまな要素があると思いますが、つまりはその他諸々を含めて「それいいね!」と消費者たちにとってちょうどいい理想を描くことで、「共感」を作り出しており、自然と「それを買う理由」にも還元されているのです。
いかがでしたか?ストーリーの奥深さ、活用の幅広さについて少しばかり紐解いてまいりました。もしかすると、今まで自社のビジネスの魅力を世の中に発信する上で「そんなストーリーを作れるほどドラマチックな背景をうちは持っていないよ」とお悩みだった方もいるかもしれません。
しかし、心配はいりません。はじめから線である必要はないのです。自社やブランドがもつ、消費者の感情を惹きつける要素(点)を、線として組み立てていき、そこで感情設計しながらストーリーを構築し、買う理由や共感をつくっていけばいいのですから。