2020.06.04
国内のコロナ新規感染者数はようやく減少傾向を見せ収束に向かう一方、いわゆるコロナショックによる大きな制約が各種企業にかかり始めてから既に2年以上が経過し、国内での倒産企業数の歯止めが効かないなど、日本経済に与えたマイナス影響は既にリーマンショックを越えるものとなりました。現状、倒産が目立つのは宿泊・飲食・アパレル・小売などの中小や零細企業。負債額は倒産した企業の過半数が10億円未満とコロナによる外出自粛や訪日外国人客の激減、休業要請の影響を直に受けた形です。
つまり、コロナ関連の倒産ではありますが、客数が途絶える、若しくは減ることによって資金繰りがひっ迫してしまう、脆弱な収益モデルでの経営が常態化しており、コロナ禍によってとどめを刺された形であるといえます。こういった基礎体力のない企業の倒産増加傾向は今後も続く恐れがあることから、企業は生き残りをかけこれまで以上にビジネスモデルの効率化・最適化を行い、筋肉質な収益モデルへと変革することが求められます。
では、筋肉質な収益モデルとは一体どのようなものを指すのでしょうか。営業力や商品力が競合他社に比べて強いことでしょうか。顧客やユーザーのニーズにとにかく幅広く応えることのできる商品バリエーションがあること?それとも自動的にモノや商材が売れる仕組みが出来ていることでしょうか。企業様によって様々なお答えをお持ちかと思いますが、今回は『コストが“適切”に削減され、且つその削減されたコストを新たなビジネスや新たな商品へと“投資”できる。』つまり利益を生む好サイクルが巡っている状態を“筋肉質な収益モデル”と定義してお話したいと思います。
近年企業様から「売り上げは上がっているのに利益が出ない」というご相談をよくいただきます。原因はご相談をいただくシチュエーションや業種によって多岐にわたるものの、今回コロナ禍で多大な影響を受けているアパレル・小売・食品製造などの企業様に多く共通している利益圧迫の原因はSKU(Stock Keeping Unit、受発注、在庫管理の最小単位)の最適化が出来ていないということです。SKUは主にブランドの違い、色・サイズ・量の違い、販売単位・単価の違いなどで区別されることが多く、顧客やユーザーのニーズに応えるためのバリエーション拡充、売場面積の確保などの理由により増加の一途を辿ってきました。
しかし、SKUが増えるということは同時に開発コスト、原材料の調達コスト、製造コスト、品質管理コスト、在庫管理コスト、物流コストなども増加する、ということです。結果その増加したコストが利益を圧迫し、そして「売り上げは上がっているのに利益が出ない」状態へと陥ってしまうのです。
では、なぜ増加したコストが利益を圧迫しているのにも関わらずSKUを削減できないのでしょうか?その理由は簡単です。「SKUを減らすことが怖いから」です。これはみなさまも心当たりがあるかもしれません。
先述したように顧客やユーザーのニーズに応えて、1より4、4より8、8より16とSKUを拡充するわけですが、裏を返せばそれは顧客やユーザーの“ニーズの本質”を捉え切れていないから起こること、であるともいえます。極端に言えば1アイテム1SKUで勝負する自信がないから、恐る恐るSKUをたくさん用意し、気づかぬ内に「売り上げは上がっているのに利益が出ない状態」が完成している、というカラクリです。
ここに面白いデータがあります。
2000年以降、世の中が急激にデジタルシフトされたことによって、2020年には人間が一生のうちに触れる総情報量は40ZB(ゼタバイト=十垓)になるといわれています。そのうち消費可能な情報はわずか0.01%。99.99%の情報は触れるだけで処理も認知もされず、最終的には選ばれない結末を迎えます。
これは少し極端なデータではありますが、要は顧客やユーザーを取り巻く環境は劇的に変化し続けている、ということです。情報過多な時代の中で先述した“ニーズの本質”はより見え辛くなっているのです。皆様自身も店頭・ECサイトで商品選択をする際に「選択肢が多くて選べない」「情報を見比べていたら疲れて購買するのを止めた」。はたまた自社商品について会議されている最中「A商品とB商品のスペックの違い、なんだっけ…」と分からなくなることはないでしょうか。
情報過多な時代が訪れていると認識する一方で、既存の顧客やユーザーを囲い込みたいがあまり『選ばれなくなる状態≒SKU拡充によるコスト増大が利益を圧迫している状態』に企業様自らが歩みを進めていないか、今一度立ち止まって思考してみる良いタイミングではないでしょうか。
加えて、SKUの最適化を行い筋肉質な収益モデルを構築する上で、最も重要視しなければならないことがあります。それはただ単に目先のコストを削っての利益化を目指してはならない、ということです。
これは有名なお話ですが、かのアップル社は低迷期30SKUもの商材を扱っていました。競合の台頭やユーザーニーズの変化に対応するために、PCだけなく周辺機器であるサーバー事業やプリンター事業にも食指を伸ばしたのです。結果アップル社独自の価値が訴求できない状態となり10億4000万ドルもの負債を抱えることになります。その後スティーブジョブズの手により30SKUを4SKUまでドラスティックに絞り込み、見事単年で3億900万ドルの黒字まで回復させました。(現状のiPhoneの販売戦略はこの逆を行ってしまっているようにも思えますが…)
このSKU最適化の際に注力したこととしては、もちろんコスト削減による利益化も含まれますが、何よりも革新的であったのが、『企業のコア価値である“Think different.”を体現できるか否か』『削ったコストや人的リソースをポータブル音楽プレイヤーなどの新領域へと投資を行い、新たな利益を生み出したこと』であったといえます。
言い換えるとそれは、
・自社やブランドでどんな未来を実現したいのかを描く
・それを理念、アイデンティティとして明確にする
・その理念、アイデンティティを判断基準にしてSKUを最適化する
上記の要点を踏まえながら、ドラスティックにSKUの取捨選択を行ったことがアップル社が筋肉質な収益モデルへと転換できたキーサクセスファクターであったといえるのではないでしょうか。ただ、アップル社が自社内のみでこのSKU最適化を完結できたのはある種特異なことであるといえます。
なぜならば、こういった類の話は開発・マーケ・営業・財務など見るべき視点やメリット・デメリットの相殺点が多岐にわたり、自社のみの凝り固まったものではない俯瞰的且つ第3者的な視座が求められるからです。(スティーブジョブズはそういった意味でも一度追い出された後の出戻り着任ですので、最適な人材であったのかもしれません)
今回のコロナ禍をただ悲観的に捉えるのではなく、現状の脆弱な収益モデルに目を向け、筋肉質な収益モデルへと変革させる機会として利用する。そして何よりも、コンパクト・シームレス・ドラスティックに第3者的な視点・視座を交えながら実現させることが重要です。YRK&では企業様のコンディションに合わせ、わずか30日でSKUの最適化~筋肉質な収益モデル構築まで完結できるコンサルテーションパッケージも準備しておりますので、お気軽にお声がけください。